NEWS - 2025.09.01
INTERVIEW「アートトイから広がる現代アートの可能性──Cbrick Marketが描く新しい市場のかたち」Part 1
アートとトイが交差する世界に、今、新たな潮流が生まれつつあります。かつては「趣味の一部」と見なされていたアートトイは、いまや単なるコレクションの域を超え、ひとつの市場として確立されつつあります。セレブリティによるコレクション、グローバルブランドとのコラボレーション、そして専門オークションの登場に至るまで、アートトイは芸術性と資産価値の両面で注目を集める存在へと進化しています。
その変化の最前線に立つのが、ソウルに拠点を構えるアートトイ専門店「Cbrick Market(チェブリックマーケット)」の代表、チェ・ウォンソク氏です。SBIアートオークションをはじめ、国際的にも注目が高まるアートトイの分野において、チェ氏はコレクターと市場の間に立ち、その芸術的価値の伝達と市場形成に貢献しています。
本インタビューでは、アートトイの魅力や市場の可能性はもちろん、作品の真贋を見極める鑑識眼、作品性を捉える審美眼、そして流行に流されずに選び取る力といった、「良い選択」の基準についても深くお話を伺いました。アートトイという独立したジャンルが国際的な市場性を獲得していく中で、私たちは何を指標に作品と向き合うべきなのでしょうか。本記事では、Cbrick Marketの取り組みを通して、その考え方に触れていきます。
1. チェ様(Cbrick Marketの事業)について
▷まず改めて、Cbrick Marketについて教えてください。
BE@BRICK、KAWS、POP MARTなどのブランドトイはもちろん、世界各地のアーティストによる作品も幅広くご紹介・販売しています 。
気がつけばこの仕事を始めてから11年目に入りました。私たちは、単なる販売の場にとどまらず、趣味や情報を共有し、コレクター同士が自然に集まり交流できるような、コミュニティのような空間を目指してきました。近年、オフライン店舗が次々と姿を消していくなか、弊店が韓国におけるアートトイ文化を支える拠点のひとつになれればという想いで、日々責任感を持って営業しています。SNSやオンラインが発展した現代ですが、やはり実物を手に取り、直接対話し、交流できる場所の価値は、今もなお大きいと信じています。
ご来店いただく韓国のアートトイコレクターの皆様と市場についてお話する機会も多くありますが、皆さん口を揃えて「韓国のアートトイ市場 はまだ基盤が十分に整っていない」とおっしゃいます。コレクターや販売者の数、市場の深さや規模のいずれも未発展で、一般層の関心も限定的なため、成長スピードが遅いのが現状です。
海外のオークションで紹介されるアートトイを目にすると、その差を一層実感させられます。特に日本、香港、アメリカのオークションでは、韓国ではなかなかお目にかかれない、希少性と芸術性を兼ね備えたアートトイが継続的に登場しています。
▷これまで当社で出品されるアートトイもご覧いただいているかと思いますが、率直な印象やご感想などをお聞かせください。
SBIアートオークションに出品されるアートトイは、いつも欠かさず拝見していて、韓国ではなかなかお目にかかれないような、希少性の高い作品が多く、毎回感嘆させられています。出品作品を通じて、韓国市場とのレベルの差を実感することも多く、私自身にとっても大きな刺激になっています。
また、私たちの店舗にお越しくださるお客様にも、こうした作品を通じて世界市場のトレンドやその奥深さに触れていただきたいと常々思っています。SBIアートオークションは、出品作品の情報やビジュアルが非常に整理されており、眺めるだけでも楽しく、かつ勉強にもなる点が素晴らしいと感じています。
こうしたプラットフォームが、韓国でもより活性化されていけば——というのが私の率直な願いです。
2. アートトイの魅力
▷初めてアートトイに触れたきっかけは何でしたか?その時の印象は?
私が初めてアートトイに出会ったのは、高校2年生の時でした。当時、アパレルショップでアルバイトをしていたのですが、そのお店のカウンターにKAWSのBE@BRICK Dissected 1000%が3体並んで展示されていました。当時はKAWSという名前も、BE@BRICKというブランドも、まだ全く知りませんでした。ただ、カウンターの中央に置かれたそのビジュアルがあまりにも圧倒的で、「これは一体何だろう?すごくカッコいい!」という感情が直感的に湧き上がったのを今でもはっきり覚えています。
その瞬間の衝撃があまりにも強く、自然とアートトイに対する興味が芽生え、そこから本格的にその世界にのめり込んでいきました。当時は今のように、インターネットで海外の情報を簡単に入手できる時代ではなかったため、日本のヤフオクサイトを必死に探し、小さなサイズのアートトイから少しずつ集め始めました。
給料をもらうたびに「次はどんなアートトイを買おうか」と考えるのが楽しみで、一つひとつ集めていくうちに、いつの間にか、部屋中がアートトイで埋め尽くされていきました。あの時のワクワク感や新鮮な衝撃は、今でも鮮明に記憶に残っています。もしあの時、あのBE@BRICKと出会っていなければ、今の私は存在していなかったかもしれません。それほど、私の人生の方向を変えた特別な出会いだったと思っています。
▷アートトイを取り扱う事業を始めるきかっけはございましたか?
アートトイを仕事として本格的に始めたきっかけは、本当に偶然に近いものでした。もともとは完全に個人的な趣味であり、アートトイのコレクションは日々のストレスを癒す手段でもありました。
しかし、結婚し、子どもを迎える準備を進める中で、家の中に増え続けるアートトイについて、妻から「この部屋、いつ片付けるの?」という話が自然と出るようになり、最終的には「全部整理して部屋を空ける」と約束することになりました。ところが、いざ整理しようとすると、これまで集めてきたアートトイを手放すのが惜しくて仕方がありませんでした。そんな時、「自分の好きなこの趣味を、他の人とも共有できたら面白いかもしれない」とふと思い立ち、そこから自然とビジネスへと繋がっていきました。
最初は、純粋にコレクションを整理する感覚で始めたのですが、次第にお客様との交流が生まれ、自分の審美眼で選んだアートトイを紹介する中で、気が付けば事業としての形ができあがっていきました。結果的に部屋を片付けるどころか、もっと広いスペースで、さらに多くのアートトイを集めて紹介するようになり、それが今のCbrick Marketの原点です。趣味がそのまま仕事に繋がったという点ではとても幸運でしたし、だからこそ今でもこの分野に対する愛着は深く、店舗を運営しながらも日々楽しさを感じています。新しいアートトイと出会うたびにワクワクする気持ちは、今でも変わりません。
▷アートトイに惹かれる点はどこですか?チェ様に限らず、コレクターの方々のお声も含めて教えていただけますか?
多くの方が共感されると思いますが、アートトイは単なるおもちゃ以上の存在だと私は考えています。特にコレクターの方々が共通しておっしゃるのは、「アートトイは日々の疲れを癒してくれるヒーリングアイテムである」ということです。仕事を終えて自宅に帰り、コレクションとして飾ったアートトイをただ眺めるだけで心が落ち着き、自然と気持ちがリセットされると、よく耳にします。その瞬間は、日常の煩わしさから解放され、自分だけの世界観に没頭できる、特別な時間になるのだそうです。
私自身も全く同じです。店舗の一角に、自分の好みに合わせてディスプレイしたアートトイたちを、ソファに座ってぼんやり眺める時間が、1日の中で最も穏やかで幸福な時間です。じっと眺めているだけでも、それぞれのアートトイが持つ感性や、そこに込められたアーティストの物語、個人的な思い出が自然と心に浮かび、癒しの時間へと繋がっていきます。
癒しの対象は人それぞれですが、ある人にとっては音楽やスニーカー、お酒がその役割を果たすように、私にとってはそれがアートトイなのです。だからこそアートトイの魅力は、単なる収集の楽しさを超えて、自分だけの空間で自分を労わり、慰めてくれる存在であり、趣味や世界観を象徴するオブジェだと感じています。こうした感情的 なつながりこそが、アートトイを特別な存在にしている最大の理由だと思います。
▷アートトイを見る際に注目しているポイントはありますか?
私がアートトイを見る際に最も重視しているのは、「第一印象」です。最初に目にした瞬間、そのアートトイが持つビジュアル的なインパクト——「可愛い」「カッコいい」といった感情が、直感的に湧き上がるかどうかが重要な判断基準になります。いくら有名なアーティストの作品でも、その第一印象で心が動かなければ、自然と手が伸びないものです。
こうした直感的な反応があって初めて、「このアートトイを作ったのは誰だろう」「どんな経歴の持ち主だろう」「どのような世界観が込められているのだろう」といった興味が湧いてきます。そして徐々に、そのアートトイに込められた哲学や制作手法、アーティストのメッセージにも関心が広がっていきます。
最終的に私が購入やコレクションを決める際には、こうしたビジュアルの魅力、アーティストの背景、そして作品に込められた物語性や世界観が、どれだけバランスよく調和しているかが鍵になります。この三つの要素が揃って初めて、「手元に置いておきたい」と思える価値があると判断します。そのため私は、アートトイの見た目だけでなく、その背後にあるストーリーや哲学まで含めて、作品を深く見るように心がけています。
▷アートトイの最新情報をどのように集められますか?
アートトイに関する最新情報の大半は、現在ではSNSから得ています。特にInstagramやX(旧Twitter)は、新作情報をリアルタイムでキャッチするのに最も早く、効率的なツールだと感じています。Instagramでは、アーティスト本人やブランドの公式アカウントをフォローしておけば、新作のリリース予定や限定アイテム、コラボレーションのニュースなどをすぐに把握できるため、日常的にチェックするようにしています。
加えて、アーティストの公式ウェブサイトや、アートトイに特化したコミュニティやフォーラムも毎日のように閲覧しています。例えば「Vinyl Pulse」や「Clutter Magazine」 といった海外の情報サイトでは、市場のトレンドやレビュー、新作情報などが深掘りされていて、非常に参考になります。
世界中で日々新しいトイが発表されているため、少しでも気を抜くと、あっという間にトレンドから取り残されてしまいます。私自身、常に検索を欠かさず、気になる情報があればメモを取り、整理する習慣が身についています。こうして日々情報をアップデートしていないと、コレクターとしても、店舗の運営者としても、市場の流れについていくのは難しいと実感しています。
結局のところ、アートトイ市場で最新トレンドを追い続けるには、まさに「情報のスピード勝負」だと思います。SNSやデジタルプラットフォームの普及により、今や地域の壁を越えて、世界中の新作や流行を即座に知ることができる時代です。それだけに、より早く、より積極的に情報を収集する姿勢が、これまで以上に求められていると感じています。

3. アートトイを購入するときの視点と真贋
▷コレクションをする際に決め手となるポイントはありますか?
先ほどもお話しした通り、購入を決める際には直感的な魅力だけでなく、より具体的で実質的な基準を慎重に考慮しています。特に重視しているのは、アーティストのこれまでの活動歴や市場での評価、展示やコラボレーションの実績などです。こうした情報を通じて、作品の希少性や今後の価値上昇の可能性をある程度見極めることができます。
もう一つ大切にしているのは、価格の妥当性です。どれほど魅力的な作品であっても、市場で形成されている相場や過去の取引実績を参考にして、価格が適正かどうかを必ず確認しています。アートトイは感性的な消費であると同時に、継続的な趣味であり、ある意味では投資的な側面もあるため、市場価格に対して過度なプレミアムが付いている場合やバブル的な価格帯の作品には慎重に向き合う必要があります。
最終的に私にとってのコレクション判断は直感、情報、そして市場における合理的な価値判断。この三つが揃ってはじめて、納得のいく選択になると感じています。このバランスを大切にすることで、長く後悔せずに愛着を持って所有し続けられる秘訣になると思っています。
▷最近需要が高まっているアイテムやアーティスト・ブランドは? 国によって特徴や違いがありますか?
「Labubuの時代」と言っても良いほど、現在の市場ではLabubuの人気が圧倒的です。K-POPアーティストやセレブリティの影響もあり、ブランド認知度は急速に拡大しました。特に香港、日本、東南アジア地域では、Labubuを取り扱っていない店舗を探す方が難しいほどです。それに伴い、Labubu関連の派生商品も人気を集め、「手元に置きたい」と思わせるブランドとして確固たる地位を築いています。
また、POP MARTの勢いも依然として健在です。多様なキャラクターや限定シリーズ、手に取りやすい価格帯のおかげで、特に若年層や初心者コレクターの間で根強い支持を得ています。POP MARTは大衆性をベースにしながらも、常に新しいシリーズを展開し、市場の関心を維持し続けています。
個人的に注目しているのは、VERDYというアーティストです。ストリートカルチャーやグラフィックデザインを基盤に、多彩なコラボレーションやプロジェクトを展開しており、その可能性は、初期のKAWSを彷彿とさせるものがあります。彼の作品世界やブランドとしての拡張性が、今後どのように展開されていくのか、とても楽しみにしています。
地域ごとの傾向としては、アジア圏、特にタイやフィリピンのコレクターは購買意欲が非常に高く、欲しいアートトイであれば価格を問わず積極的に購入する傾向があります。それだけ市場も活発です。一方で、ベトナムはトレンドへの反応が非常に敏感で、人気の移り変わりによって需要が急激に変動する特徴があります。
アメリカやヨーロッパでは、コレクターの数こそ比較的少ないものの、作品性や希少性に対する基準が非常に高く、深みのある市場が形成されています。香港ではコレクターや販売者の数が多く、現地流通は非常に活発ですが、意外にも海外への流通にはあまり繋がっていない印象です。
このように、国や地域によって消費者の志向や市場の特性が異なるため、アーティストやトイブランドは、それぞれの特性をしっかり理解し、適切な戦略を立てることが重要だと感じています。今後も地域ごとのトレンドや消費者の動向を丁寧に読み解き、柔軟に対応していくことが、グローバル市場での競争力を左右する大きな要素になると思います。

▷アートトイを購入する際、信頼できる購入先を選ぶことが重要だと思いますが、どのような販売経路を通じて購入するのがおすすめでしょうか?Cbrick Marketやオークションの活用ポイントなどもあわせてお話しいただけますと幸いです。
おっしゃる通り、信頼できる購入先を選ぶことは非常に重要です。特に近年は偽物が多く出回っており、その点に対してはより慎重な対応が求められます。正直なところ、韓国ではまだ安心して取引できる専門店がそれほど多くありません。そのため、私たちCbrick Marketを訪れてくださるお客様が多いのだと感じています。弊店では、取り扱うアートトイすべてを自ら検証・管理しており、比較的安心してご購入いただけることが強みです。
また、オークションを活用することも非常に有効な手段だと思います。特にSBIアートオークション、サザビーズ、クリスティーズといったグローバルなオークションハウスでは、出品前に厳格な真贋確認プロセスが行われるため、信頼性の高い取引が可能です。もちろん、オークションという形式上、価格がやや高めになる傾向はありますが、その分しっかりとした出品審査と透明性が担保されているという点で、安心して参加できるプラットフォームだと考えています。
さらに、オークションでは市場ではなかなか出回らない希少なアートトイに出会えることも多く、コレクターにとって非常に魅力的な購入チャンネルです。競争入札によって落札するプロセスそのものももスリルがあり、特別な体験となります。ただし、オークション利用時には、掲載情報や実物の状態を細かく確認することが重要です。信頼できるオフラインの店舗と、検証体制が整ったオークションハウスの両方をうまく活用することが、安心かつ満足度の高い購入方法だと考えています。私たちCbrick Marketも、そうした基準を満たす存在であり続けられるよう、日々努力を重ねています。
▷オークションを通してアートトイを購入することのメリットについて、どのように感じていらっしゃいますか?
オークションでアートトイを購入する際に感じる最大の魅力は、やはり「希少性の高いアイテムを、思っていたよりも良い条件で落札できたときのあの爽快感」に尽きると思います。通常の取引ではなかなか出会えないような作品が出品されることも多く、長年探していたアイテムや以前から気になっていたアートトイに出会えた瞬間の高揚感は、言葉では表しきれない特別なものがあります。さらに、ライブオークションでは、リアルタイムで入札状況が変動するなかで、他の入札者との駆け引きを楽しむスリルも醍醐味の一つです。目の前で価格が上がっていく緊張感や、最後の一押しで落札が決まったときの喜びや興奮は、一般的なオンラインショッピングや店舗での購入では得られない体験です。
ただ、韓国ではまだアートトイのオークション出品数が限られているため、その点については個人的に物足りなさを感じています。日本や香港では、多様なアートトイが継続的に出品されており、文化として根付いている印象があります。一方で、韓国では市場規模や需要の面でまだ十分に発展していない印象があります。
今後韓国でもアートトイオークションの機会がもっと増え、より多くのコレクターがこの魅力を体験できるようになることを願っています。こうした文化が根付いていけば、単なる収集の楽しみにとどまらず、市場の多様性や奥行きもさらに広がっていくはずだと信じています。
▷実際にオークションでアートトイを入札・購入される際にチェックされているポイントやコレクターの目線で「見るべきポイント」があれば教えてください。
オークションでアートトイを購入する際、私が最も重視するのは作品のコンディション(保存状態)です。アートトイは単なる観賞用の雑貨ではなく、コレクションとしての価値を持つオブジェです。そのため、ほんのわずかな傷や劣化であっても、長期的に所有したときの満足度や将来的な価値に影響を及ぼします。長期的に所持したときに大きな違いが出てきます。
最初に確認するのは「再塗装の有無」です。知識がないと再塗装された作品をオリジナルの色味や質感だと誤解してしまうことがあります。これは特に見落としやすいポイントですが、再塗装は本来の価値が損なわれており、コレクター間でも評価が著しく低くなります。そのため、必ずチェックするようにしています。
次に気を付けているのは、変色です。特に白や淡い色のアートトイは、時間の経過とともに自然に黄ばむことがあり、その度合いによって見た目の印象も大きく変わります。また、接合部の隙間やヒビ、わずかな亀裂も注意すべきポイントです。長期間の展示や、不安定な環境での保管によって、構造的に弱い部分にダメージが出やすくなります。さらに、足裏の擦り傷や細かな塗装の剝がれといった小さなキズも、作品の扱われ方や保管状態を知る指標になります。
オークションでは、実物を確認できず、写真だけで判断しなければならないケースが多いため、多方向からの写真がしっかり掲載されているか、また作品の状態がどこまで詳細に説明されているかを注意深くチェックします。可能であれば、オークションの担当者に直接連絡を取り、追加の写真やより具体的な情報を問い合わせるのも有効な手段です。
結局のところ、アートトイもアート作品と同様に「ディティールが命」だと考えています。細部にわたって丁寧に確認し、慎重に判断することで、将来的にコレクションとしての価値が高まるだけでなく、手にしたときの満足感や納得感にもつながると実感しています。
▷アートトイには贋作の流通もあるとお聞きします。これまでに「贋作」について印象に残っているエピソードがございましたら、教えていただけますか。
偽物にまつわるエピソードは本当に沢山ありますが、特に印象に残っているのはタイ での出来事です。現地で事前に売主とアポイントを取り、直接会って取引する予定だったのですが、用意されていた5点中、実に3点が偽物でした。写真で見る限りはクオリティが高く、正直なところ画像だけでは真贋の見分けがつきませんでした。しかし、実際に手に取り、重さやサイズを測り、私が個人的にまとめていたKAWSのスペック資料と照らし合わせることで、偽物だと確信することができました。もしあの時確認を怠っていたら、私自身も騙されていたかもしれません。それほど最近の偽物は以前とは比べ物にならないほど精巧に作られており、塗装や仕上げも非常に丁寧です。こうした経験を重ねるなかで、私自身も独自の判別基準やデータベースを構築するようになりました。
韓国のフリマサイトでは「Cbrick Marketで購入した商品です」という一文が、一種の正規品保証のように受け取られることも多くあります。それだけ偽物が出回っているという現実を反映していると思います。そういった話を耳にするたびに、責任感を感じると同時に、市場全体においても、信頼できる真贋判定や検証体制の整備が今後ますます必要になると感じています。これからも真贋を見極めるノウハウをさらに蓄積し、お客様に更なる安心感を提供できるよう、日々努力していきたいと考えています。
▷アートトイをコレクションされる方に向けて、保管・展示の際に気をつけてほしいポイントやアドバイスはありますか?
アートトイのコレクションにおいて、保管・展示時の環境管理は何よりも重要です。まず保時には、紫外線対策が不可欠です。直射日光に長時間さらされることで、色褪せや変色が進んでしまうため、できるだけ日の当たらない場所での保管をおすすめします。また、温度や湿度を一定に保つことも大切です。特に湿気の多い季節には、素材によってはカビや素材の劣化の原因になるため、乾燥剤の使用も効果的です。
展示時には、できればUVカット機能付きのケースに入れて展示するのが理想です。また、定期的にホコリを払うことで、微細なホコリの蓄積による塗装面の劣化も防げます。塗装が繊細なアートトイには特にこうしたケアが欠かせません。アートトイは一種のアート作品です。丁寧に管理しながら所有することで、その価値を長く維持でき、手に取ったときの満足感も格段に高まります。コレクターの皆さんには基本的な保管と管理の習慣をしっかりと身につけていただきたいと思います。

>>>>>Part 2
インタビュイーの紹介
「Cbrick Market」に関する最新の販売情報や各種アートトイに関するご案内は、Instagramアカウント「CBRICK___MARKET」にて随時発信中。
その変化の最前線に立つのが、ソウルに拠点を構えるアートトイ専門店「Cbrick Market(チェブリックマーケット)」の代表、チェ・ウォンソク氏です。SBIアートオークションをはじめ、国際的にも注目が高まるアートトイの分野において、チェ氏はコレクターと市場の間に立ち、その芸術的価値の伝達と市場形成に貢献しています。
本インタビューでは、アートトイの魅力や市場の可能性はもちろん、作品の真贋を見極める鑑識眼、作品性を捉える審美眼、そして流行に流されずに選び取る力といった、「良い選択」の基準についても深くお話を伺いました。アートトイという独立したジャンルが国際的な市場性を獲得していく中で、私たちは何を指標に作品と向き合うべきなのでしょうか。本記事では、Cbrick Marketの取り組みを通して、その考え方に触れていきます。
1. チェ様(Cbrick Marketの事業)について
▷まず改めて、Cbrick Marketについて教えてください。
BE@BRICK、KAWS、POP MARTなどのブランドトイはもちろん、世界各地のアーティストによる作品も幅広くご紹介・販売しています 。
気がつけばこの仕事を始めてから11年目に入りました。私たちは、単なる販売の場にとどまらず、趣味や情報を共有し、コレクター同士が自然に集まり交流できるような、コミュニティのような空間を目指してきました。近年、オフライン店舗が次々と姿を消していくなか、弊店が韓国におけるアートトイ文化を支える拠点のひとつになれればという想いで、日々責任感を持って営業しています。SNSやオンラインが発展した現代ですが、やはり実物を手に取り、直接対話し、交流できる場所の価値は、今もなお大きいと信じています。
ご来店いただく韓国のアートトイコレクターの皆様と市場についてお話する機会も多くありますが、皆さん口を揃えて「韓国のアートトイ市場 はまだ基盤が十分に整っていない」とおっしゃいます。コレクターや販売者の数、市場の深さや規模のいずれも未発展で、一般層の関心も限定的なため、成長スピードが遅いのが現状です。
海外のオークションで紹介されるアートトイを目にすると、その差を一層実感させられます。特に日本、香港、アメリカのオークションでは、韓国ではなかなかお目にかかれない、希少性と芸術性を兼ね備えたアートトイが継続的に登場しています。
▷これまで当社で出品されるアートトイもご覧いただいているかと思いますが、率直な印象やご感想などをお聞かせください。
SBIアートオークションに出品されるアートトイは、いつも欠かさず拝見していて、韓国ではなかなかお目にかかれないような、希少性の高い作品が多く、毎回感嘆させられています。出品作品を通じて、韓国市場とのレベルの差を実感することも多く、私自身にとっても大きな刺激になっています。
また、私たちの店舗にお越しくださるお客様にも、こうした作品を通じて世界市場のトレンドやその奥深さに触れていただきたいと常々思っています。SBIアートオークションは、出品作品の情報やビジュアルが非常に整理されており、眺めるだけでも楽しく、かつ勉強にもなる点が素晴らしいと感じています。
こうしたプラットフォームが、韓国でもより活性化されていけば——というのが私の率直な願いです。
2. アートトイの魅力
▷初めてアートトイに触れたきっかけは何でしたか?その時の印象は?
私が初めてアートトイに出会ったのは、高校2年生の時でした。当時、アパレルショップでアルバイトをしていたのですが、そのお店のカウンターにKAWSのBE@BRICK Dissected 1000%が3体並んで展示されていました。当時はKAWSという名前も、BE@BRICKというブランドも、まだ全く知りませんでした。ただ、カウンターの中央に置かれたそのビジュアルがあまりにも圧倒的で、「これは一体何だろう?すごくカッコいい!」という感情が直感的に湧き上がったのを今でもはっきり覚えています。
その瞬間の衝撃があまりにも強く、自然とアートトイに対する興味が芽生え、そこから本格的にその世界にのめり込んでいきました。当時は今のように、インターネットで海外の情報を簡単に入手できる時代ではなかったため、日本のヤフオクサイトを必死に探し、小さなサイズのアートトイから少しずつ集め始めました。
給料をもらうたびに「次はどんなアートトイを買おうか」と考えるのが楽しみで、一つひとつ集めていくうちに、いつの間にか、部屋中がアートトイで埋め尽くされていきました。あの時のワクワク感や新鮮な衝撃は、今でも鮮明に記憶に残っています。もしあの時、あのBE@BRICKと出会っていなければ、今の私は存在していなかったかもしれません。それほど、私の人生の方向を変えた特別な出会いだったと思っています。
▷アートトイを取り扱う事業を始めるきかっけはございましたか?
アートトイを仕事として本格的に始めたきっかけは、本当に偶然に近いものでした。もともとは完全に個人的な趣味であり、アートトイのコレクションは日々のストレスを癒す手段でもありました。
しかし、結婚し、子どもを迎える準備を進める中で、家の中に増え続けるアートトイについて、妻から「この部屋、いつ片付けるの?」という話が自然と出るようになり、最終的には「全部整理して部屋を空ける」と約束することになりました。ところが、いざ整理しようとすると、これまで集めてきたアートトイを手放すのが惜しくて仕方がありませんでした。そんな時、「自分の好きなこの趣味を、他の人とも共有できたら面白いかもしれない」とふと思い立ち、そこから自然とビジネスへと繋がっていきました。
最初は、純粋にコレクションを整理する感覚で始めたのですが、次第にお客様との交流が生まれ、自分の審美眼で選んだアートトイを紹介する中で、気が付けば事業としての形ができあがっていきました。結果的に部屋を片付けるどころか、もっと広いスペースで、さらに多くのアートトイを集めて紹介するようになり、それが今のCbrick Marketの原点です。趣味がそのまま仕事に繋がったという点ではとても幸運でしたし、だからこそ今でもこの分野に対する愛着は深く、店舗を運営しながらも日々楽しさを感じています。新しいアートトイと出会うたびにワクワクする気持ちは、今でも変わりません。
▷アートトイに惹かれる点はどこですか?チェ様に限らず、コレクターの方々のお声も含めて教えていただけますか?
多くの方が共感されると思いますが、アートトイは単なるおもちゃ以上の存在だと私は考えています。特にコレクターの方々が共通しておっしゃるのは、「アートトイは日々の疲れを癒してくれるヒーリングアイテムである」ということです。仕事を終えて自宅に帰り、コレクションとして飾ったアートトイをただ眺めるだけで心が落ち着き、自然と気持ちがリセットされると、よく耳にします。その瞬間は、日常の煩わしさから解放され、自分だけの世界観に没頭できる、特別な時間になるのだそうです。
私自身も全く同じです。店舗の一角に、自分の好みに合わせてディスプレイしたアートトイたちを、ソファに座ってぼんやり眺める時間が、1日の中で最も穏やかで幸福な時間です。じっと眺めているだけでも、それぞれのアートトイが持つ感性や、そこに込められたアーティストの物語、個人的な思い出が自然と心に浮かび、癒しの時間へと繋がっていきます。
癒しの対象は人それぞれですが、ある人にとっては音楽やスニーカー、お酒がその役割を果たすように、私にとってはそれがアートトイなのです。だからこそアートトイの魅力は、単なる収集の楽しさを超えて、自分だけの空間で自分を労わり、慰めてくれる存在であり、趣味や世界観を象徴するオブジェだと感じています。こうした感情的 なつながりこそが、アートトイを特別な存在にしている最大の理由だと思います。
▷アートトイを見る際に注目しているポイントはありますか?
私がアートトイを見る際に最も重視しているのは、「第一印象」です。最初に目にした瞬間、そのアートトイが持つビジュアル的なインパクト——「可愛い」「カッコいい」といった感情が、直感的に湧き上がるかどうかが重要な判断基準になります。いくら有名なアーティストの作品でも、その第一印象で心が動かなければ、自然と手が伸びないものです。
こうした直感的な反応があって初めて、「このアートトイを作ったのは誰だろう」「どんな経歴の持ち主だろう」「どのような世界観が込められているのだろう」といった興味が湧いてきます。そして徐々に、そのアートトイに込められた哲学や制作手法、アーティストのメッセージにも関心が広がっていきます。
最終的に私が購入やコレクションを決める際には、こうしたビジュアルの魅力、アーティストの背景、そして作品に込められた物語性や世界観が、どれだけバランスよく調和しているかが鍵になります。この三つの要素が揃って初めて、「手元に置いておきたい」と思える価値があると判断します。そのため私は、アートトイの見た目だけでなく、その背後にあるストーリーや哲学まで含めて、作品を深く見るように心がけています。
▷アートトイの最新情報をどのように集められますか?
アートトイに関する最新情報の大半は、現在ではSNSから得ています。特にInstagramやX(旧Twitter)は、新作情報をリアルタイムでキャッチするのに最も早く、効率的なツールだと感じています。Instagramでは、アーティスト本人やブランドの公式アカウントをフォローしておけば、新作のリリース予定や限定アイテム、コラボレーションのニュースなどをすぐに把握できるため、日常的にチェックするようにしています。
加えて、アーティストの公式ウェブサイトや、アートトイに特化したコミュニティやフォーラムも毎日のように閲覧しています。例えば「Vinyl Pulse」や「Clutter Magazine」 といった海外の情報サイトでは、市場のトレンドやレビュー、新作情報などが深掘りされていて、非常に参考になります。
世界中で日々新しいトイが発表されているため、少しでも気を抜くと、あっという間にトレンドから取り残されてしまいます。私自身、常に検索を欠かさず、気になる情報があればメモを取り、整理する習慣が身についています。こうして日々情報をアップデートしていないと、コレクターとしても、店舗の運営者としても、市場の流れについていくのは難しいと実感しています。
結局のところ、アートトイ市場で最新トレンドを追い続けるには、まさに「情報のスピード勝負」だと思います。SNSやデジタルプラットフォームの普及により、今や地域の壁を越えて、世界中の新作や流行を即座に知ることができる時代です。それだけに、より早く、より積極的に情報を収集する姿勢が、これまで以上に求められていると感じています。
3. アートトイを購入するときの視点と真贋
▷コレクションをする際に決め手となるポイントはありますか?
先ほどもお話しした通り、購入を決める際には直感的な魅力だけでなく、より具体的で実質的な基準を慎重に考慮しています。特に重視しているのは、アーティストのこれまでの活動歴や市場での評価、展示やコラボレーションの実績などです。こうした情報を通じて、作品の希少性や今後の価値上昇の可能性をある程度見極めることができます。
もう一つ大切にしているのは、価格の妥当性です。どれほど魅力的な作品であっても、市場で形成されている相場や過去の取引実績を参考にして、価格が適正かどうかを必ず確認しています。アートトイは感性的な消費であると同時に、継続的な趣味であり、ある意味では投資的な側面もあるため、市場価格に対して過度なプレミアムが付いている場合やバブル的な価格帯の作品には慎重に向き合う必要があります。
最終的に私にとってのコレクション判断は直感、情報、そして市場における合理的な価値判断。この三つが揃ってはじめて、納得のいく選択になると感じています。このバランスを大切にすることで、長く後悔せずに愛着を持って所有し続けられる秘訣になると思っています。
▷最近需要が高まっているアイテムやアーティスト・ブランドは? 国によって特徴や違いがありますか?
「Labubuの時代」と言っても良いほど、現在の市場ではLabubuの人気が圧倒的です。K-POPアーティストやセレブリティの影響もあり、ブランド認知度は急速に拡大しました。特に香港、日本、東南アジア地域では、Labubuを取り扱っていない店舗を探す方が難しいほどです。それに伴い、Labubu関連の派生商品も人気を集め、「手元に置きたい」と思わせるブランドとして確固たる地位を築いています。
また、POP MARTの勢いも依然として健在です。多様なキャラクターや限定シリーズ、手に取りやすい価格帯のおかげで、特に若年層や初心者コレクターの間で根強い支持を得ています。POP MARTは大衆性をベースにしながらも、常に新しいシリーズを展開し、市場の関心を維持し続けています。
個人的に注目しているのは、VERDYというアーティストです。ストリートカルチャーやグラフィックデザインを基盤に、多彩なコラボレーションやプロジェクトを展開しており、その可能性は、初期のKAWSを彷彿とさせるものがあります。彼の作品世界やブランドとしての拡張性が、今後どのように展開されていくのか、とても楽しみにしています。
地域ごとの傾向としては、アジア圏、特にタイやフィリピンのコレクターは購買意欲が非常に高く、欲しいアートトイであれば価格を問わず積極的に購入する傾向があります。それだけ市場も活発です。一方で、ベトナムはトレンドへの反応が非常に敏感で、人気の移り変わりによって需要が急激に変動する特徴があります。
アメリカやヨーロッパでは、コレクターの数こそ比較的少ないものの、作品性や希少性に対する基準が非常に高く、深みのある市場が形成されています。香港ではコレクターや販売者の数が多く、現地流通は非常に活発ですが、意外にも海外への流通にはあまり繋がっていない印象です。
このように、国や地域によって消費者の志向や市場の特性が異なるため、アーティストやトイブランドは、それぞれの特性をしっかり理解し、適切な戦略を立てることが重要だと感じています。今後も地域ごとのトレンドや消費者の動向を丁寧に読み解き、柔軟に対応していくことが、グローバル市場での競争力を左右する大きな要素になると思います。
▷アートトイを購入する際、信頼できる購入先を選ぶことが重要だと思いますが、どのような販売経路を通じて購入するのがおすすめでしょうか?Cbrick Marketやオークションの活用ポイントなどもあわせてお話しいただけますと幸いです。
おっしゃる通り、信頼できる購入先を選ぶことは非常に重要です。特に近年は偽物が多く出回っており、その点に対してはより慎重な対応が求められます。正直なところ、韓国ではまだ安心して取引できる専門店がそれほど多くありません。そのため、私たちCbrick Marketを訪れてくださるお客様が多いのだと感じています。弊店では、取り扱うアートトイすべてを自ら検証・管理しており、比較的安心してご購入いただけることが強みです。
また、オークションを活用することも非常に有効な手段だと思います。特にSBIアートオークション、サザビーズ、クリスティーズといったグローバルなオークションハウスでは、出品前に厳格な真贋確認プロセスが行われるため、信頼性の高い取引が可能です。もちろん、オークションという形式上、価格がやや高めになる傾向はありますが、その分しっかりとした出品審査と透明性が担保されているという点で、安心して参加できるプラットフォームだと考えています。
さらに、オークションでは市場ではなかなか出回らない希少なアートトイに出会えることも多く、コレクターにとって非常に魅力的な購入チャンネルです。競争入札によって落札するプロセスそのものももスリルがあり、特別な体験となります。ただし、オークション利用時には、掲載情報や実物の状態を細かく確認することが重要です。信頼できるオフラインの店舗と、検証体制が整ったオークションハウスの両方をうまく活用することが、安心かつ満足度の高い購入方法だと考えています。私たちCbrick Marketも、そうした基準を満たす存在であり続けられるよう、日々努力を重ねています。
▷オークションを通してアートトイを購入することのメリットについて、どのように感じていらっしゃいますか?
オークションでアートトイを購入する際に感じる最大の魅力は、やはり「希少性の高いアイテムを、思っていたよりも良い条件で落札できたときのあの爽快感」に尽きると思います。通常の取引ではなかなか出会えないような作品が出品されることも多く、長年探していたアイテムや以前から気になっていたアートトイに出会えた瞬間の高揚感は、言葉では表しきれない特別なものがあります。さらに、ライブオークションでは、リアルタイムで入札状況が変動するなかで、他の入札者との駆け引きを楽しむスリルも醍醐味の一つです。目の前で価格が上がっていく緊張感や、最後の一押しで落札が決まったときの喜びや興奮は、一般的なオンラインショッピングや店舗での購入では得られない体験です。
ただ、韓国ではまだアートトイのオークション出品数が限られているため、その点については個人的に物足りなさを感じています。日本や香港では、多様なアートトイが継続的に出品されており、文化として根付いている印象があります。一方で、韓国では市場規模や需要の面でまだ十分に発展していない印象があります。
今後韓国でもアートトイオークションの機会がもっと増え、より多くのコレクターがこの魅力を体験できるようになることを願っています。こうした文化が根付いていけば、単なる収集の楽しみにとどまらず、市場の多様性や奥行きもさらに広がっていくはずだと信じています。
▷実際にオークションでアートトイを入札・購入される際にチェックされているポイントやコレクターの目線で「見るべきポイント」があれば教えてください。
オークションでアートトイを購入する際、私が最も重視するのは作品のコンディション(保存状態)です。アートトイは単なる観賞用の雑貨ではなく、コレクションとしての価値を持つオブジェです。そのため、ほんのわずかな傷や劣化であっても、長期的に所有したときの満足度や将来的な価値に影響を及ぼします。長期的に所持したときに大きな違いが出てきます。
最初に確認するのは「再塗装の有無」です。知識がないと再塗装された作品をオリジナルの色味や質感だと誤解してしまうことがあります。これは特に見落としやすいポイントですが、再塗装は本来の価値が損なわれており、コレクター間でも評価が著しく低くなります。そのため、必ずチェックするようにしています。
次に気を付けているのは、変色です。特に白や淡い色のアートトイは、時間の経過とともに自然に黄ばむことがあり、その度合いによって見た目の印象も大きく変わります。また、接合部の隙間やヒビ、わずかな亀裂も注意すべきポイントです。長期間の展示や、不安定な環境での保管によって、構造的に弱い部分にダメージが出やすくなります。さらに、足裏の擦り傷や細かな塗装の剝がれといった小さなキズも、作品の扱われ方や保管状態を知る指標になります。
オークションでは、実物を確認できず、写真だけで判断しなければならないケースが多いため、多方向からの写真がしっかり掲載されているか、また作品の状態がどこまで詳細に説明されているかを注意深くチェックします。可能であれば、オークションの担当者に直接連絡を取り、追加の写真やより具体的な情報を問い合わせるのも有効な手段です。
結局のところ、アートトイもアート作品と同様に「ディティールが命」だと考えています。細部にわたって丁寧に確認し、慎重に判断することで、将来的にコレクションとしての価値が高まるだけでなく、手にしたときの満足感や納得感にもつながると実感しています。
▷アートトイには贋作の流通もあるとお聞きします。これまでに「贋作」について印象に残っているエピソードがございましたら、教えていただけますか。
偽物にまつわるエピソードは本当に沢山ありますが、特に印象に残っているのはタイ での出来事です。現地で事前に売主とアポイントを取り、直接会って取引する予定だったのですが、用意されていた5点中、実に3点が偽物でした。写真で見る限りはクオリティが高く、正直なところ画像だけでは真贋の見分けがつきませんでした。しかし、実際に手に取り、重さやサイズを測り、私が個人的にまとめていたKAWSのスペック資料と照らし合わせることで、偽物だと確信することができました。もしあの時確認を怠っていたら、私自身も騙されていたかもしれません。それほど最近の偽物は以前とは比べ物にならないほど精巧に作られており、塗装や仕上げも非常に丁寧です。こうした経験を重ねるなかで、私自身も独自の判別基準やデータベースを構築するようになりました。
韓国のフリマサイトでは「Cbrick Marketで購入した商品です」という一文が、一種の正規品保証のように受け取られることも多くあります。それだけ偽物が出回っているという現実を反映していると思います。そういった話を耳にするたびに、責任感を感じると同時に、市場全体においても、信頼できる真贋判定や検証体制の整備が今後ますます必要になると感じています。これからも真贋を見極めるノウハウをさらに蓄積し、お客様に更なる安心感を提供できるよう、日々努力していきたいと考えています。
▷アートトイをコレクションされる方に向けて、保管・展示の際に気をつけてほしいポイントやアドバイスはありますか?
アートトイのコレクションにおいて、保管・展示時の環境管理は何よりも重要です。まず保時には、紫外線対策が不可欠です。直射日光に長時間さらされることで、色褪せや変色が進んでしまうため、できるだけ日の当たらない場所での保管をおすすめします。また、温度や湿度を一定に保つことも大切です。特に湿気の多い季節には、素材によってはカビや素材の劣化の原因になるため、乾燥剤の使用も効果的です。
展示時には、できればUVカット機能付きのケースに入れて展示するのが理想です。また、定期的にホコリを払うことで、微細なホコリの蓄積による塗装面の劣化も防げます。塗装が繊細なアートトイには特にこうしたケアが欠かせません。アートトイは一種のアート作品です。丁寧に管理しながら所有することで、その価値を長く維持でき、手に取ったときの満足感も格段に高まります。コレクターの皆さんには基本的な保管と管理の習慣をしっかりと身につけていただきたいと思います。
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