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NEWS - 2025.09.02

INTERVIEW「アートトイから広がる現代アートの可能性──Cbrick Marketが描く新しい市場のかたち」Part 2

アートとトイが交差する世界に、今、新たな潮流が生まれつつあります。かつては「趣味の一部」と見なされていたアートトイは、いまや単なるコレクションの域を超え、ひとつの市場として確立されつつあります。セレブリティによるコレクション、グローバルブランドとのコラボレーション、そして専門オークションの登場に至るまで、アートトイは芸術性と資産価値の両面で注目を集める存在へと進化しています。
その変化の最前線に立つのが、ソウルに拠点を構えるアートトイ専門店「Cbrick Market(チェブリックマーケット)」の代表、チェ・ウォンソク氏です。SBIアートオークションをはじめ、国際的にも注目が高まるアートトイの分野において、チェ氏はコレクターと市場の間に立ち、その芸術的価値の伝達と市場形成に貢献しています。
本インタビューでは、アートトイの魅力や市場の可能性はもちろん、作品の真贋を見極める鑑識眼、作品性を捉える審美眼、そして流行に流されずに選び取る力といった、「良い選択」の基準についても深くお話を伺いました。アートトイという独立したジャンルが国際的な市場性を獲得していく中で、私たちは何を指標に作品と向き合うべきなのでしょうか。本記事では、Cbrick Marketの取り組みを通して、その考え方に触れていきます。

>>>>>Part 1

4. 著名人のコレクションによるアートトイへの影響
▷最近、アートトイがSNS上で注目を集め、特にK-POPアイドルなどの著名人もコレクションされている方が多く見受けられます。その点はどのように感じていらっしゃいますか?
セレブリティによるコレクション活動がアートトイ市場に与える影響は、非常に大きいと実感しています。実際、このような動きは最近始まったことではなく、以前から見られていました。たとえば、俳優のチャン・グンソク氏がBE@BRICKを愛用していたことで、韓国内に大きなブームが巻き起こった時期がありました。あの時に初めてBE@BRICKという存在を知った方も多かったのではないでしょうか。その後も、SE7ENやBIGBANGのG-DRAGON、T.O.Pといったアイドルたちが、自身のSNSやミュージックビデオなどでBE@BRICKやKAWSの作品を頻繁に紹介したことにより、一般層の関心が自然と高まりました。その影響は今もなお継続しています。
最近では、BLACKPINKのメンバーがLabubuのキーホルダーを使用し、その様子をSNSに投稿したことで、世界的な注目を集めました。たった一度の投稿が瞬く間に拡散され、Labubuのブランド認知と需要が爆発的に高まったことで、市場全体にも大きな活気が生まれました。このような自然な露出は、もはやマーケティングの域を超えた影響力を持っていると言っても過言ではありません。
今後もこうした現象は続いていくと思いますし、著名人の趣向が一般層の関心を喚起する重要な起爆剤として機能していくだろうと考えています。

▷SNSでの拡散や著名人によるコレクションが、アートトイ市場に与える影響についてはいかがですか?
SNSでの拡散やセレブリティによるコレクション活動は、アートトイ市場の活性化において非常に大きな役割を果たしていると考えています。先ほど挙げたLabubuの事例はまさにその代表であり、K-POPアイドルを代表するグループという強い発信力を持つ存在が紹介したことにより、国内外のメディアにも取り上げられるほどの話題となりました。その結果、それまでアートトイに関心のなかった人々にも自然と名前が知られるようになり、関連アパレルを手がけるメーカーが登場したり、取引や情報共有を目的としたコミュニティが形成されたりするなど、市場の広がりを目の当たりにしています。
このように、セレブリティによるコレクションは単なる一消費行動にとどまらず、産業や文化にも波及するポジティブな効果をもたらしています。その影響力は決して無視できないものですし、このような現象は、Labubuに限ったものではないと思います。今後さらに別のブランドやアーティストにも広がっていく可能性を秘めていると感じます。こうした変化は、アートトイ市場の裾野を広げる大きな契機となり、多様なブランドや作家が新たに注目を集めるきっかけになっていくと期待しています。

▷SNS上での広がりやアイドルによる発信が、アートトイの制作プロセスやマーケティング戦略について影響を与えていると思いますか?もし具体的な事例があれば教えてください。
確かに、SNS上でのインフルエンサーやアーティストによる発信は、アートトイの制作やマーケティングにも明確な影響を与えていると感じています。例えば、ある著名人の好みや趣向が公開されることで、それに関連したアパレルや小物を手がけるメーカーが自然発生的に現れ、それを起点にコミュニティが形成され、自発的な取引や情報交換が活発になるといった流れが生まれています。インフルエンサー一人の投稿が、市場全体に波及する力を持っていることを日々実感します。特にSNSの拡散性が加わることで、その影響のスピードと広がりは想像以上です。今やブランドやアーティストも、初期の企画段階からインフルエンサーやSNSを前提にした戦略を構築せざるを得ない時代になったと感じます。
私自身も、実店舗の運営だけでなくSNSでの発信に多くの時間を割いています。かつては店頭に足を運ばなければ見ることができなかった商品も、今ではInstagramやX(旧Twitter)でリアルタイムに紹介でき、すぐにお客様の反応を知ることができます。オフラインでのコミュニケーションも依然として重要ですが、より広い層と繋がり、新たな顧客層を開拓する上で、SNSを含めたオンラインでの発信はますます不可欠になるはずです。これからはアーティストやトイブランドも、SNSやインフルエンサーマーケティングを前提とした企画設計が求められる時代に入ったと考えています。

Cbrick Market


5. 市場動向と今後の展望
▷日本国内外のマーケット規模や価格帯の変化傾向はありますか?
韓国のアートトイ市場は、現時点ではまだ規模が小さく、大衆的な関心も限定的な段階ですが、少しずつ着実に成長していると感じています。一方、日本は長い歴史と文化的な基盤がしっかりと築かれており、トイショップの数や市場の深さ、コレクター層の厚みにおいて、明確な差があります。コレクション文化が生活に自然と溶け込んでいる日本市場の成熟度は、非常に羨ましく思います。特に東京や大阪といった大都市には専門店が集まり、様々なアーティストやブランドが活発に活動しているため、市場の活気そのものが韓国とは異なると実感しています。
韓国では、アートトイを「芸術的価値の対象」としてではなく、「投資的な側面」から捉える傾向が強く見られます。そのため、経済状況が不安定になり、景気が後退すると、市場も敏感に反応し、取引量が大幅に減少する傾向があります。実際、最近のグローバルな景気後退や消費マインドの冷え込みの影響を受け、韓国のアートトイ市場もやや停滞している印象を受けています。
さらに、国際的な情勢や貿易障壁、政治的な要因も市場に大きな影響を与えています。例えば、香港からアメリカへの輸出時に関税が引き上げられたり、物流制限が課されたりすることで、市場全体の動きが鈍化してしまうのです。こうした外部要因が解消されなければ、国際的な取引の活性化も難しく、市場の回復には時間がかかると見ています。
とはいえ、若年層を中心にアートトイへの関心は確実に高まっており、SNSを通じてアーティストと消費者が直接繋がる機会も増えてきています。その結果、韓国国内の市場基盤も少しずつ強固になってきたという手応えがあります。今後もこの流れが続けば、韓国もやがて日本のように成熟した、安定性のあるアートトイ市場へと発展していくことを期待しています。

▷デジタル領域(オンライン限定アイテム、NFT連動)の可能性はありますか?
個人的には、NFTとの連動に対してはやや否定的な立場を取っています。アートトイという存在は、実際に手に取り、目で見て、触れることで得られる感覚的な体験こそが最大の魅力だと考えています。実物が持つ質感や存在感、そして「所有する」という感覚は、コレクションの醍醐味であり、NFTのようにデジタル上で所有権のみを持つ形では、それを代替することはできません。
韓国でも一時期、NFTとアートトイを組み合わせたプロジェクトがありましたが、結局その流れは定着せず、自然と市場から消えていきました。その背景には、アートトイコレクターたちが物理的な完成度や実在性を何よりも重視しているという実態があります。やはりNFTのように「触れられないコレクション」は本質的な魅力にはなり得ないと感じています。もちろん、テクノロジーの進化によって新しいコレクションの形が生まれる可能性はあります。ただ、私としては、アートトイの価値は「実物ありき」であるという立場に変わりありません。
ただし、NFTが伝統的なコレクション市場を補完するツールとして機能する可能性はあると考えています。例えば、所有する実物に紐づくデジタル証明書や、所有履歴のトレーサビリティを担保し、アートトイの価値を証明するための仕組みとして活用される場合、それには一定の意義があるでしょう。しかしながら、それがコレクションの本質や市場の中心となるのは難しいと考えています。

▷10年後のコレクション文化はどうなっていると思いますか?
今後10年で、コレクション文化はより多様化・細分化し、それぞれの趣向に沿った形で進化していくと予測しています。かつてはKAWSやBE@BRICKのような象徴的なアイコンがマーケットを牽引していましたが、今後はそのような一極集中から脱脚し、個々のアーティストが独自の美学や哲学をもとにポジションを確立していく流れが主流になると思います。特に若年層は、自分の好みやアイデンティティを大切にする傾向が強く、知名度のある作家にこだわらず、SNSやオンラインプラットフォームを通じて、自分にとって価値のある作品を見つけていく傾向が顕著です。その結果、無名の新進作家が一気に注目を集めるような現象も増えていくと思います。
また、コレクション文化は単に「集める」だけでなく、「どう飾るか」、「誰と共有するか」、さらには「どのようにライフスタイルに取り入れるか」といった次のステージへと進化していくと感じています。インテリアとの親和性や、ファッション、音楽、テクノロジーとの融合など、多角的な文化との接続が進むことで、よりオープンでクリエイティブな楽しみ方が広がっていくはずです。
技術面でもARやVRなどの技術を通じて、自分のコレクションをデジタル空間で展示・共有する時代が訪れるかもしれません。私は今後も実物の魅力を大切にしたいと考えていますが、世代が変わるにつれて、実物とデジタルの境界がより曖昧になっていく可能性も感じています。
最終的には、これからの10年、アートトイが芸術的価値を持つだけでなく、個人の趣味やライフスタイルを表現するメディアとして確立され、多様な価格帯・ジャンルが共存する豊かなエコシステムへと成長していくことを期待しています。私自身も、そうした変化の中で、自分らしい方法でこのコレクション文化に貢献し、新たなトレンドを一緒に創り上げていきたいと考えています。

▷今後、アートトイをより幅広い層に知っていただくためには、どのような取り組みや工夫が必要だとお考えでしょうか?
アートトイの魅力に気軽に触れ、共感できる接点をいかに増やすかが、何よりも重要だと考えています。その第一歩は、SNSを通じて継続的に新作情報を発信し、様々な作家やブランドの背景を紹介していくことにあると思います。ただ新商品のリリースを伝えるだけでなく、作品に込められた作家の哲学や背景、そして実際にそのアートトイを手にした時に感じられる楽しさや喜びといった要素まで丁寧に伝えるコンテンツが求められています。そうしたアプローチによって、アートトイは単なる玩具ではなく、芸術的価値や個人の趣味嗜好を表現するメディアであるという認識を広めるきっかけになるはずです。
また、コレクターとのコミュニケーションも非常に大切だと感じています。実際のコレクションを紹介したり、コレクターがアートトイを通じて感じる感情や日常の変化を共有したりすることで、それまでアートトイに関心のなかった人々にも自然と興味を持ってもらえるようになります。こうしたストーリーテリングは、アートトイの魅力をより広く伝えるための有効な手段だと思います。
さらに、オフラインイベントの重要性も無視できません。展示会やフリーマーケット、作家との交流会、ライブペインティングなど、実際にアートトイを見て、触れて、体験できる場を提供することは、関心を深める大きなきっかけになります。韓国ではこうした文化がまだ十分に根付いていない部分があるため、私自身も今後はオフラインを基盤としたコミュニティの活性化に取り組んでいきたいと考えています。
加えて、アートトイがファッション、音楽、映画といった多様なカルチャーコンテンツと繋がっていくことで、より多くの人々に自然と浸透していくはずです。例えば、有名ファッションブランドとのコラボレーションエディションや、ミュージックビデオへの登場、映画の小道具としての起用など、様々な接点が生まれれば、アートトイはより広い文化の一部として受け入れられるようになるでしょう。最終的には、こうした地道な取り組みと多様な接点づくりこそが、市場の拡大に繋がる鍵になると考えています。

▷最後に、このインタビュー記事をご覧の皆様にメッセージがあればお願いします。
私が日頃からお客様にお話ししていることですが、「無理のない範囲で、ストレスなく、楽しみながらコレクションを続けていただきたい」ということです。趣味である以上、生活に負担をかけてまで集める必要はありませんし、自分のペースで向き合うことが最も大切だと考えています。今回のインタビューを通じて、私自身も初心に立ち返る良い機会となりました。今後も引き続き、コレクションの楽しさやアートトイの魅力を、より多くの方々に届けられるよう、尽力していきたいと思います。

インタビュイーの紹介
「Cbrick Market」に関する最新の販売情報や各種アートトイに関するご案内は、Instagramアカウント「CBRICK___MARKET」にて随時発信中。


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