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NEWS - 2026.05.01

テキスト記録「知っておきたいフジタの話 足あと・筆あと・そして人々」

国内の重要なシングルオーナーコレクションに焦点を当てた「Modern Legacy: An Important Japanese Collection of 20th & 21st Century Masters」セールの開催にあわせ、東京ステーションギャラリー学芸員・若山満大氏を迎え、同セールのメインロットである藤田嗣治に関するトークイベントを実施しました。

本イベントでは、今日私たちが知る「おかっぱ頭・丸メガネ・猫・乳白色の下地・魅力的な女性像」という作家イメージがいかに形作られたのかを、作品だけでなく、その足取りや交友関係も含めて通史的にたどりました。
本稿は、承認への渇望と挫折も含めた非常に人間らしい藤田の姿に迫ることで、そこから生み出された作品や同時代の創作全体に対する新たな視点のヒントを提示した講演の内容をまとめたものです。

【開催概要】
トークイベント「知っておきたいフジタの話 足あと・筆あと・そして人々」
日時:2026年3月14日(土)11:00-12:00(受付開始:10:30-)
会場:東京国際フォーラム ホールD5(〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-5-1)
登壇者:若山満大氏(東京ステーションギャラリー 学芸員)

【登壇者プロフィール】
若山満大(わかやま・みつひろ)
東京ステーションギャラリー学芸員。主な関心領域は、日本近現代美術史および写真史。愛知県美術館学芸員、あいちトリエンナーレ2016キュレトリアルチーム、アーツ前橋学芸員などを経て現職。2025年夏には、写真をキーワードに藤田嗣治の生涯を読み解く展覧会「藤田嗣治 絵画と写真」を企画し、フジタ研究に新たな視点を提示した。そのほか、「大西茂」(2026)、「安井仲治」(2023–2024)、「甲斐荘楠音」(2022)など、独自の表現を切り拓いた異才たちの個展を多数手がけている。共編著に『Photography? End?──7つのヴィジョンと7つの写真的経験』(magic hour edition、2022)。



I. 本編
1. 初期キャリア:東京美術学校〜渡仏まで(1886–1913)
藤田は1886年生まれ。幼少期から絵を好み、父は陸軍軍医の藤田嗣明(ふじた・つぐあきら)で、比較的裕福な環境で育ちます。
その後、当時の東京美術学校(現・東京藝術大学)に入り、黒田清輝の教室で学びます。黒田は国費留学経験を持ち、パリで印象派を学んだ影響力の大きい画家でした。
しかしながら藤田は、卒業制作の自画像(この頃はまだおかっぱでも丸眼鏡でもありません)で黒を強く用いるなど、明るい色調を使った黒田の教育方針に「逆張り」するような姿勢を見せます。藤田は日本の権威に認められようという気はさらさら無く、早くからフランス行きを志していました。

2. 渡仏とパリでの模索:流行への接近と「会心の作」(1913–1917)
最初の転機となったのは1913年。藤田は当時の妻・鴇田登美子(ときた・とみ)とともに、父が赴任していた京城(現ソウル)を訪れ留学の相談をした後、船でマルセイユへ向けて出港します。渡仏航海中に撮影された、まだ垢抜けない藤田が「植民地帽」と呼ばれるヘルメットを被って写っている写真が残っています。
当時のヨーロッパは、20世紀初頭の芸術潮流であるキュビスム、フォーヴィスムなどが席巻していました。藤田も当初は強い影響を受け、キュビスム風の作品を描いています(例として、《キュビスム風静物》(1914年、ポーラ美術館蔵))。
そんな彼が「独自の画面を手に入れた」と喜び語った最初の例として、ポーラ美術館所蔵の《巴里城門》(1914年)が挙げられます。画布の裏には「自分がパリに着いてからできた最初の会心作だ」という趣旨のコメントが書かれており、キュビスムや印象派の模倣ではなく、藤田らしさが芽生えた作品といえます。

3. 周縁性と自己演出の萌芽:城壁の内と外(1910年代)
当時のパリは戦乱期の名残を残す城壁に囲まれた都市で、藤田が画業の初期に足しげく通ったのは城壁の内と外の境界にあたる地域でした。藤田は街はずれの門付近など、中心から外れた風景を描いています。
ここには階級制の色濃い社会の中で周縁へ押し出された人々も多く、藤田自身もまた「中心」から距離のある存在でした。シンパシーを感じたからなのか理由は定かではないですが、藤田はそういったものにひたむきに目を向けていました。

4. 「古代ギリシャ生活」への傾倒:イサドラ&レイモンド・ダンカンの影響(1914頃)
藤田の初期キャリアを語るうえで重要なのが、その奇抜な生活です。スカートを履いて機織りをする藤田のセルフポートレート(《自写像》1914年、秋田県立美術館蔵)が残っていますが、藤田は「西洋芸術の根本を知りたい」と考え、古代ギリシャの生活の再現を試みます。
その背景には、モダンダンスの開拓者として知られるアメリカの舞踊家、イサドラ・ダンカンとレイモンド・ダンカンらが提唱した「ギリシャ・ダンス(ギリシャ時代の彫刻に見られる身体作法を元にしたダンス)」の思想がありました。
藤田は画家の川島理一郎とともに、パリから遠く離れたドルドーニュ地方へ移住し、マルザック城とレイニャック城という古城の管理を引き受ける代わりに住み込みで生活しつつ、自給自足の暮らしを送りながら制作を続けます。
ドルドーニュ県はラスコー洞窟など先史時代の遺跡を擁する土地です。西洋文明の根に触れるという意味では、理に適った土地だといえるでしょう。

5. 浮世絵からの発想とブレイク:水彩の成功(1917)
貧しかった藤田は油彩を量産できず、水彩で制作を重ねます。1917年頃の作品には仏画を思わせる気配や、印象的な手の描写が見られます(例として、個人蔵の《風景の中のヴェールの女》(1917年)や《夢想の鳩》(1917年))。
これらについて藤田は、喜多川歌麿や鈴木春信など浮世絵から強い刺激を受けたと語っており、女性像のクローズアップ、細い線描、長くしなやかな手といった日本的造形を武器にしていったのです。
結果、藤田はシェロン画廊で水彩100点以上を完売する成功を収めます。個展はエコール・ド・パリの画家たちも訪れ、ピカソが3時間近く作品を見ていたため、藤田と画廊主のシェロンとも、「ピカソもこれだけ穴が開くほど絵を見ているんだから」と成功を確信したという逸話も伝わっています。

6. エコール・ド・パリの只中で:差異化の必然
当時のパリは世界中の画家が集まる中心地で、成功には「他にないもの」が必要でした。藤田は日本的要素を、良くも悪くも露骨なほど戦略的に押し出します。
周囲には、まず既に売れていた作家として、藤田より10歳以上年齢が上のアンドレ・デュノワイエ・ド・スゴンザックやモーリス・ド・ヴラマンクといったフォーヴィスムの作家たちがいました。加えて、藤田とほぼ同世代の1880年代生まれの画家たちが20世紀初頭から頭角を現しており、その筆頭としてパブロ・ピカソやマルク・シャガールといった異国からやってきた画家で、自分たちの画風を完全に確立している画家たちもいた。それに遅れること、リトアニアから来たシャイム・スーティンやイタリアから来たアメデオ・モディリアーニといった、藤田と一緒に貧乏暮らしをしながら切磋琢磨した画家たちがいて、またパリ出身の女性画家マリー・ローランサン、ポーランドから来たモイズ・キスリング、現ベラルーシ出身のオシップ・ザツキン、ブルガリアから来たジュール・パスキンもいます。こうした非常に個性的な画家たちがひしめく中に食い込んでいくには徹底した工夫が不可欠であり、ある種の商業主義的な精神が必要だったわけです。




7. 評価の確立:1920年代と「乳白色の下地」
藤田の評価が確立するのは1920年代です。
その代表例が、1921年のサロン・ドートンヌに出品された、ポンピドゥー・センター蔵《私の部屋 目覚まし時計のある静物》 、ベルギー王立美術館蔵《自画像》、そしてプチ・パレ蔵《裸婦》から成る一連の出品作です。
この時評価されたのが、藤田独自の乳白色の下地でした。
フォーヴの画家たちが絵具を厚く盛り、鮮やかな色彩を競うのに対し、藤田は白黒基調・平滑な画面へ振り切ります。そこに極細線描を活かし、日本的なもの、つまり自身が浮世絵に感じていた女性のきめ細やかな肌の質感を表現しようとしました。

8. セルフプロデュース:東でも西でもない「藤田像」
藤田はこうして、他人には真似のできない技法を引っ提げてパリでの地位を築いていくわけですが、社会的な成功を手にするには良い作品に加えて、社交界で名が通ることも重要でした。藤田は「東洋人であること」を差別化のアドバンテージとして使い、巧みなセルフプロデュースで一躍パリの寵児になりました。
東京国立近代美術館蔵《自画像》(1929年)には、金の額縁で額装された女性の肖像画といった伝統的洋画家を思わせる室内の要素を置きつつ、本人は硯に面相筆を持ち、おかっぱに丸眼鏡、ちょび髭をはやして金の丸いピアスを付けている。そうした奇抜な装いで「東の者とも西の者ともつかないない存在」として自己を演出します。
その演出を加速させたのが写真メディアです。ベレニス・アボット、アンドレ・ケルテスなど、多くの写真家に自身を撮らせ、時にはアトリエ内に日本風の茶屋を再現して撮影させるほどでした。
さらに藤田は服も自作します。貧乏時代にテーラーで働いた経験や自給自足生活のおかげで裁縫ができた藤田は、ミシンを自ら踏んで派手なシャツを作り、お裁縫もできる画家という面白いイメージそれ自体を物語にします。こうして藤田は、いわば「歌って踊れる画家」というキャラクターとして、存在感を確立します。

9. 環太平洋の旅:写真=イメージアーカイヴ(1930年代)
藤田はそんな栄光の時代を経て、3番目の妻のユキとの関係悪化や税金の納付漏れなどの諸事情もあり、逃げるように中南米へ旅に出ます。当時アルゼンチンは南米のパリと呼ばれたほど繁栄しており、そこに行けば仕事が沢山降ってくる。お金を稼ごうという算段で、出かけたわけです。
フランスを出発して、ブラジル、アルゼンチン、ボリビア、ペルー、エクアドル、キューバ、メキシコ、カリフォルニアやロサンゼルス、サンフランシスコなどのアメリカ西海岸に滞在した後、太平洋を横断し日本、さらに中国、ベトナム、シンガポール等、延べ10年ほどの長期にわたり移動を重ねます。
藤田は「環太平洋地域の人種図鑑を作る」と宣言し、この旅で大量の写真を撮ります。写真は藤田にとってメモ書き、すなわち、自分の見てきたものを図書館や辞書のように、見たいときに引っ張り出せるイメージアーカイヴのように使っていました。
絵の資料として特に藤田が注目したのは人の相貌や服の模様などで、撮影したパーツはモンタージュされ、絵画制作へ転用されています。例として広島県立美術館蔵《婦人像(リオ)》(1932年)に南米の黒人女性や教会のイメージが活かされていたり、秋田では戸沢歌子さんという小学生の女の子をモチーフとして気に入り、写真に撮影して何度も絵に描いています。藤田が日本を見る眼は、ほぼ異邦人の視点で見ているという感じがします。同じく秋田では雪国の風物を200枚以上撮影し、民具も大量に購入、それらの資料は1937年の大作 《秋田の行事》(平野政吉美術財団蔵。横幅約3.65m)へと結実します。

10. 戦時下の順応と戦争画、そして戦後の糾弾
1938年、国民精神総動員運動など総力戦体制が進む中、藤田は和服・日本刀などを身につけてメディアに登場し、1941年頃には丸坊主姿も見せます。当時の周りの人から見れば洋行帰りがイキっているようにしか見えなかったと思うのですが、これも誰よりも日本人らしくあろうとした「社会への順応=セルフプロデュース」と言えます。
《猫》(1940年、東京国立美術館蔵)などに見られるように、20年代から猫を描き続けてきたことにより獲得した既存イメージの強化も怠りません。この作品は群像表現の延長で、人間の争いをメタファーとして表現していると解釈できます。
そして、藤田はやがて戦争画へ向かいます。代表作は《アッツ島玉砕》(1943年、東京国立近代美術館蔵(無期限貸与))です。実際これで国威発揚、戦意高揚したかは定かではないという見方もありますが、戦後、藤田はこうした戦争画の制作を激しく糾弾されます。
一方で藤田はGHQ嘱託として戦争画の収集にも関わり、1946年の戦犯リストに名がなかったことで公式には戦犯ではないとされます。しかし画壇からの批判は強く、藤田は日本を離れる決意を固めます。

11. 渡米・パリ復帰と再起(1949–1950)
藤田はGHQの民生官だったフランク・シャーマンの協力を得て、1949年に羽田から渡米。
「絵描きは絵だけ描いてください。日本画壇は早く世界水準になってください」という辛辣な言葉を残し、日本を後にします。
アメリカで個展を開いたのち、パリのポール・ペトリデス画廊で1950年に20点から成る個展を開催。これが再起戦となり成功します。中南米を経たカラフルなゴテゴテとした絵肌、あるいは戦中の重たく土臭い絵肌から、再び乳白色の下地が復活していきます。《占いの老女》(1949年、堀美術館蔵)の中で、占い師のおばあさんの後ろにいるカラスがハートのエースを咥えています。タロットでは、ハートのエースは再起・成功を意味するカードだそうで、そういったものを描きこみ、もう一度軌道に乗るようにという願いも込めてこの作品を制作したのだと思われます。

12. 晩年:カラー写真と宗教画、礼拝堂(1950年代–1968)
藤田は1950年代、ヨーロッパ各地でカラー写真を多数撮影します。木村伊兵衛が藤田のカラースライドに驚き、日本へ持ち帰って雑誌掲載したことで、カラー写真黎明期の写真家たちに影響を与えました。
写真家はそれまで白黒(モノクローム)の論理で画面を組み立ててきたため、急にやってきた色という大きな要素をどのように扱うべきか分からなかった。構図だけでなく色彩のバランスといった絵画の理論を写真へ持ち込む藤田の視点が、ここで図らずも作用したのです。
カラー写真は色も含めてすべてを記録してくれますから、藤田はそれを画面の構築に活かしています。例えば《庭園の子ども達》(1958年、聖徳大学蔵)は、テレビを見ている子供たちの写真を再構成することで素敵な宗教画風に仕上がっている事例です。
また、藤田は自身が撮影したカラースライドを映写機にかけて、人に見せたり自分で楽しんだりしていたそうです。
晩年、藤田は子どもや社会の下層に置かれた人々を多く描きます。精神分析的解釈として、「権威(強い父、パリ画壇、日本社会、あるいは国家そのもの)に認められたい欲求が挫折し、無垢な子ども像に自己を重ねた」という説もあり、示唆として興味深いです。
そして藤田は宗教画へ傾倒し、1959年に洗礼を受け、フランス国籍を取得します。
最晩年の大仕事が、ランス近郊の礼拝堂の建立と内部装飾です。礼拝堂は1966年に落成。藤田はその2年後、1968年にチューリッヒで癌により逝去します。
こうした藤田の歴史は、藤田自身が書き残した資料を基にして編まれているため、非常にドラマチックです。藤田自身も自分の言動が後世に残るということは意識していて、日記を清書したりしていたことが分かっています。

13. 《エレーヌ・フランクの肖像》

今回のオークションには、《エレーヌ・フランクの肖像》という1924年の作品が出品されています。これは間違いなく藤田の代表的な作品の一つで、来歴も明らかです。最初はベルギーのアントワープで展示され、その後回顧展などにも何度か出ています。
こうしたいわゆるお金持ちの奥様の肖像画というのは複数あります。例えば《ロジータ・ド・ガネイ伯爵夫人の肖像》(1923年、個人蔵)は、《エレーヌ・フランクの肖像》に非常に似ています。乳白色の下地、真ん中に4分の3正面の女性像というオーソドックスなポートレートの描き方をしており、調度品も配置されています。少し生気の抜けたような人体表現も近い印象を受けます。
また、《エレーヌ・フランクの肖像》には木版の捺染によるジュイ布というフランスの生活でポピュラーな布が描かれています。藤田はこうしたディティールを描くのが好みで、ジュイ布も藤田が好んで用いたモチーフの一つです。

14. 技法解説:乳白色の下地
藤田の代名詞である「乳白色の下地」の技法の確立は、19年から21年頃であったとされています。
近年の調査で下地からは鉛白、炭酸カルシウム(貝殻を砕いたもの)、硫酸バリウム等複数の白色顔料が検出されています。乾性油などで下地を作ることで油性の支持層ができますが、水と油は弾きあうため、通常の水性の墨線は定着しにくい。
藤田はここで、タルク(滑石)を散布して表面性状を調整し、油性下地の上に水性の墨線が乗る状態を作り出しました。これにより、浮世絵・日本画に見られるような極細線描を油彩画面で可能にし、「西洋と東洋の融合」を技術として実現したのです。
二つの文化を越境した藤田が技術研究の末に到達した独自の境地が、この乳白色の下地だったということです。

15. 関連作家・人脈(オークション文脈)


オークションには藤田と関わる作家の作品も多く出品されています。
直接交流のあった例としては、パブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラックがいます。タマラ・ド・レンピッカ、ジョルジュ・デ・キリコは直接の交流があったかは不明ですが、彼らはシュルレアリストたちと非常に親しく交流したので、藤田にとっては友達の友達のような間柄だったかもしれません。
また、関係が深い人物としてアントワーヌ・ブールデル、マン・レイが挙げられます。マン・レイのアトリエ訪問の際、藤田は「素人のラジオ狂の家のようだ」といった印象を語り、そこでモダニズム写真の作り方を理解したと述べています。
また日本側では、二科系の文脈で関わる画家たち、斎藤義重、難波田龍起、吉原治良、山口長男が挙げられ、藤田が吉原に「人真似ではいけない」と助言した話は、後の具体美術協会のオリジナリティ重視にもつながったとされます。
さらに戦後にパリへ渡った次世代として、菅井汲、今井俊満、堂本尚郎なども、藤田の成功を知る世代として位置づけられます。

II. Q&A
Q1. 資金について
国をこれだけ移動する際、お金はどうやって調達・移動したのでしょうか。
A1.
資金面では、パリで稼いでおり、当時のフランは国際的に強い通貨でした。国際金融の仕組みも整っていたので、どこへ行っても資金面で大きく困ったとは考えにくいですね。

Q2. 女性遍歴について
藤田は女性関係が派手というイメージですが、その内容について教えてください。
A2.
藤田は妻が5人いたことで知られます。二番目の妻であるフェルナンド・バレエは藤田をシェロン画廊へ導いた存在とも言われますが、成功の直前に別れています。三番目の妻は「ユキ」と呼ばれたベルギー系フランス人のリュシー・パトゥで、藤田が「雪のように白い肌だから」と日本名を与え、以後その名で通したとされています。
その後、赤毛の踊り子マドレーヌ・ルクーとの南米旅行、マドレーヌの薬物過量摂取による死、そして五番目の妻、堀内君代との関係など、複雑な経緯があります。戦後に相続の問題が出た際、法的な婚姻関係の整理(ユキとの離婚と君代との再婚)を行ったとも伝わります。
ただ、奥さん以外の関係については私の把握が限定的で、確実に言える範囲はここまでです。

Q3. ヨーロッパでの評価について
藤田は1920年代に大成功した後も、ヨーロッパでピカソのようにずっと巨匠だったのでしょうか。あるいは近年フランスで見直されているのでしょうか。国際的ポジションがどう変化したのかについて教えてください。
A3.
藤田は20年代の段階でフランスの芸術勲章を得ており、国家から認められた画家でした。同世代の大作家が一線にいる間、藤田も並ぶ存在として評価されていました。
また戦後もパリ市立近代美術館へ寄贈するなど、存命中から作品がミュージアム・ピース化しています。戦後美術を紹介する展覧会でも、ピカソやマティスと同じ部屋に並ぶ形で出品された例があり、一定の評価は揺るがなかったと言えます。
私は2025年夏のフジタ展の準備のためにフランスの国立図書館へ行ったのですが、その際に受付のお姉さんが私の眼鏡を見て、「藤田と同じ丸眼鏡」と言ってきたくらい、近年もフランスで文化に触れている人なら藤田の名は通じる、という実感があります。

III. 付録:フジタ早わかり図 足あと・筆あと・そして人々

※トークイベントの講演内容を基に編集

なお、東京ステーションギャラリーでは、2026年6月21日(日)まで、「スイス絵画の異才 カール・ヴァルザー 世紀末の昏き残照」展を開催中です。同展はその後、大阪中之島美術館にも巡回を予定しております。是非ご高覧ください。

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NEWS - 2026.02.27

対談イベント記録「市場の目線/批評の視点——Modern Legacyセールをめぐる対話」

国内の重要なシングルオーナーコレクションに焦点を当てた「Modern Legacy : An Important Japanese Collection of 20th & 21st Century Masters」セールの先行下見会において、批評家・南島興氏を迎え、コレクションというまとまりをどう読むか、対談イベントを実施しました。本イベントでは、下見会という一回限りの総体を手がかりに、作品群とコレクションの面白さを市場と批評、それぞれの観点から辿りました。本稿では、両者のズレも含めて対話を記録し、作品や作家・展示を見る解像度を上げるヒントとしてお届けします。



【開催概要】
対談イベント「市場の目線/批評の視点——Modern Legacyセールをめぐる対話」
日時:2026年1月29日(木)18:00-19:30
会場:代官山ヒルサイドフォーラム
登壇者:南島興氏(批評家)、加来水緒(SBIアートオークション 営業企画部次長)

【登壇者プロフィール】
南島興(みなみしま・こう)
批評家。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了(西洋美術史)、博士課程後期中退(美学)、横浜美術館学芸員を経て、現在はフリーで執筆・レクチャー、またアートライティング講座やYoutubeチャンネル「美術どうでしょう」の企画など。全国の常設展・コレクション展をレビューするプロジェクト「これぽーと」主宰。共同通信「見聞録」連載中。

加来水緒(かく・みお)
SBIアートオークション株式会社 営業企画部次長 兼 オークショニア。慶應義塾大学大学院 美学美術史学修了。2008年に国内アートオークション会社に入社、東京、香港、シンガポールにおいてアートオークションの企画・運営を行う。2021年より現職。2019年より青山学院大学総合文化政策学部にて「マーケットから見た美術史」の授業を担当。

1. 第一印象:個人コレクションの手触り
加来:
美術館で収集の担当もなさっていた南島さんから見て、本先行下見会はいかがでしょうか。

南島(敬称略、以下同じ):
美術館のように明確な方針に基づいた収集というより、その時々の関係性や注目、美意識が積み重なって、時代の厚みが刻まれている印象です。またリトグラフやドローイングのような小ぶりな作品など、美術館収蔵品とは異なる「個人が長年愛好してきた手触り」を感じる作品が複数ありました。
時代としては中心は50-60年代にありつつ、その周縁への広がりもあるコレクションですね。

2. 下見会という展示:価値のヒエラルキーと「分散」の前提
南島:
展示空間の中心には、価格帯でも最上位に位置する藤田嗣治《エレーヌ・フランクの肖像》が据えられています。こうした価格による価値のヒエラルキーが明確であるところが、美術館展示とは大きく違います。

加来:
下見会は入札検討者が実物を見て判断する場で、ゴールは購入・所有です。高いものが良いとは限りませんが、仕組み上「高額作品をどう見せ、どう買っていただくか」は重要な前提です。
見せ方としては、コンディションが見分できるクリアさを重視し、同一作家や同時代・関連ムーブメントは近くに配置しています。会場の自然光も活かし、家に飾った時のイメージができる空間を意識して展示しています。

南島:
一般的に美術館は網羅性(時代の連続性)を重視し、どこか欠落があると一点の「お宝開陳」展示にもなりやすい。一方オークションは競りを通じて作品が分散することが決まっていて、総体を永続的に保持する前提ではないところが、展示構成上の観点として根本的に違うようですね。
そして目の前の総体は、まさに今この瞬間だけ存在している。その一回性が特殊で、コレクターの活動というおぼろげなものを、いま限定で論じられること自体が特殊な体験だと感じます。つまり、いま私たちはなくなるものについて語っているわけです。



3. 作品群の読み:時代ごとの論点
3-1. 19世紀末から20世紀初頭:周縁性/遅れの創造性
南島:
このメイン展示室を見てまず思うのは、エドワルド・ムンク、藤田嗣治、ジョルジョ・デ・キリコ、エゴン・シーレ、タマラ・ド・レンピッカ……どこか周縁的な要素を感じさせる作家が並んでいるということです。
ムンクはノルウェー、シーレはウィーン、藤田はエコール・ド・パリの中でマイノリティとして評価されてきた。デ・キリコはギリシャ生まれでイタリアの作家でもあるけれど、どこの流派にも属さず、形而上絵画という独自の作風で生き続けた。
もう一点、ここは生年で見るとさらに面白くて。
例えば《アヴィニョンの娘たち》(1907年)をピカソが25~26歳で描いたとき、デ・キリコは19歳、シーレは17歳の頃です。つまり彼らは、高校生くらいの時に10歳上の先輩たちがキュビスムを始めた。また未来派は1909年のマリネッティによる「未来派宣言」に始まります。こうした大きな動きを見て、下の世代は「自分はどうする?」と考えなかったはずがないです。
そこでの選択肢は大きく三つ。一つは亜流になっていく。キュビスムならキュビスム風の絵画や写実的な画法との折衷として生きていく道もある。一つは古典回帰。これは前衛を否定するという立場ですね。そして、もう一つは第3の道として孤独に自分の作風を確立する道です。私の感覚では、デ・キリコはまさにその路線で、前衛とは別の方向へと独自の作風を立ち上げていくんです。これを「じゃあ今だったら?」とか「1960年を基準にしたら「遅れた」人は何をした?」みたいに考えるのも面白い。

加来:
「周縁性・遅れ」という観点では、極東・日本のコレクションであること自体も、欧米中心の物差しに照らせば通じるところがありますね。

南島:
今回のデ・キリコ《偉大な形而上学者》は、MoMA所蔵の同名油彩(1917年)を立体化したものに見える。そういう反復を見ると、デ・キリコは、形而上絵画が評価されたことで「これじゃないといけない」と縛られていったではと感じます。マーケットとの関係のなかで苦闘した人生だったのかな、と。
私は大学時代ジョルジョ・モランディを研究していたんですが、デ・キリコ、カルロ・カッラ、モランディの3人は、形而上絵画を1910年代に取り組んだ後に、全く別の道に向かいます。デ・キリコはその後も同じ作風を続けた。カッラは古典回帰。モランディは静物画へ進んだとされます。だから「前衛から遅れた世代」のパターンとして、デ・キリコ型/カッラ型/モランディ型みたいな見方ができる。作家がどう変遷したのか、批評としても研究としても面白い。



3-2. 戦後直後:実存のムードと別の可能性
南島:
ジョルジョ・ルオーやベルナール・ビュッフェには、日本の1950-60年代における実存主義的なムードと通じるものがあり、すごく時代の影を感じますね。

加来:
両作家は国内にもコレクターが多く、オークションにも比較的出ます。今回の方もお好きだったようで、コレクションに複数点入っています。

南島:
そう、だから余計に「日本の方のコレクションだな」という感じがする。
作品で言うと、ビュッフェ《Rue de village》が1946年作というのが興味深い。戦後直後で物資もないし、作品が消失しているケースもあるし、そもそも絵を描くことが自体が難しい時代。この時期の作品は相対的に少なく、46年作が残っていること自体に希少性があると思います。
しかも本展示では、隣に1953年の静物画(《Nature morte aux bouteilles》)が並んでいて、そこでは黒い輪郭線で、いわゆるビュッフェの作風に至っている。つまり46年作は、その一歩手前で、まだ作風が固定化しきっていない。デ・キリコの画業とも重なるかもしれませんが、私には、本作に「ビュッフェになる前のビュッフェ」の可能性が見えます。
作家が誰かになっていく、作家って何なのか、コレクターやマーケットとの関係は何なのか……そういうことに思いを馳せる入口になる作品だと思います。

加来:
ビュッフェにも、デ・キリコみたいに悩みがあったのかもしれないですね。

南島:
ルオーも制作年が1940-48年で、戦争の色を強く残しています。それから面白いのが、ビュッフェもルオーも、どちらも画面の真ん中に「道」があることです。一つは何もない道、一つはキリストがいる道。どちらにも戦後直後の祈りや実存的不安が反映されていて、この2点の取り合わせは興味深いなと思いました。



3-3. 抽象/具象:二分法をほどく
南島:
50-60年代はアンフォルメルや抽象表現主義の動きを筆頭に抽象の時代とされますが、表面的な抽象/具象という区分はあまり重要ではありません。抽象的に思える作品にも具象的なモチーフは入り込むし、色のトーンの調整や構成によっては具象的に見える作品も、抽象的に感じる。難波田龍起の《三月の建物》は、右上の緑の丸みたいな形が、形而上絵画に出てきそうなモチーフに見えたりして、美術史上の具体的な作品への参照がいくつか混ざり合っている感じがします。構成主義的な意味での抽象よりむしろ手仕事的な要素もありますね。そういう様々な形式やモチーフが混在する時代として見た方が、コレクションの厚みも理解できると思います。

加来:
ムンクや藤田も集めつつ、こういう戦後抽象も拾っている。多様性が魅力でありつつ、きちんと時代ごとの要所を押さえている感じが面白いですよね。

南島:
はい。ここで重要なのは「抽象か具象か」で割り切らず、例えば山田正亮なら静物画からworkシリーズへみたいに、連続性(バリエーション)として捉えることだと思います。

3-4. 具体以後:構造を変える試みと再評価
南島:
このコレクションの中心の一つは、具体美術に関係した作家たちの「その後」だと思います。具体そのものというより、海外で直に触れて帰ってきたりして、そこから絵画の構造そのものをどう変えるかに実直に向き合っている作品がある。堂本尚郎《連続の溶解 No.19》は、1964年のベネチア・ビエンナーレでの受賞からおそらく2年後の作品ですが、地塗りの赤に黒を重ねて、図と地の関係の意識的な更新をはかろうとする問題意識が見える。
2013年のグッゲンハイム美術館「GUTAI」展を端緒とした具体再評価の流れがありますが、その実態がどういうものなのかを理解することも大切ですし、当たり前ですが、作品の構造をしっかり把握することも必要な作業だと思います。また例えば、堂本の妻であった毛利眞美の画業など、女性の芸術家への注目も欠かせません。
コレクションとしては、このコレクターの方はおそらくこれらの作家と同世代のはずで、そうした同時代性の厚みが示されたように感じます。

3-5. アメリカ:メディウムとしての版画
南島:
ジャスパー・ジョーンズ《SAVARIN (ULAE 183)》は画像で見るよりも実物が良く感じた作品の一つでした。ジョーンズは、一見ポップアート的に既成イメージを使うように見えるけれど、蜜蝋を混ぜて筆跡を残すなど素材性・マチエールを共存させ、イメージと物質性のどちらかに落ちないまま宙吊りで揺れ続ける作家です。それがリトグラフでもちゃんと出ているし、しかもサイズが大きいので、展示の中で目に留まります。

加来:
美術館だと本画中心で、版画は入りにくい、という話も聞きますが、本画/版画の混在をどう見ますか?

南島:
美術館も版画は収蔵します。ただ、重要なのは、版画作家ではない場合は、版画というメディウムがその作家にとってどういう位置づけなのかという点です。
例えば、彫刻家は彫刻の延長線上で版画をやっているタイプの方がいます。立体を作る感覚でやっていることがあるので、単に販売用として作っているわけではない。
ジョーンズの場合、メディウムを変えてもやりたいこと、つまり問題意識は変わらないのだと思います。絵画でこう表れ、版画ではこう表れる、「別バージョン(バリエーション)」として捉えると、版画がむしろ作家性を説明する材料にもなります。



3-6.ミニマリズム/プロジェクト:平面化された作品性
南島:
次にミニマリズムやクリストのような平面が専門ではない作家による平面作品。ここは意外に面白かったです。
例えば桑山忠明の《4 Red Squares (TK1425-65)》は、スタティックな物質性を目指しているのに、このサイズになると逆に歪みや手の痕跡が見え、人間らしさが出てしまう感じがある。いわゆる絵画の時代の後の作品たちで、ほかにもミニマリズム的なものをどういうふうに脱色するかみたいなことに取り組んだ作品もありますが、ポストミニマリズム以降の評価の難しさも改めて感じました。クリストはアートプロジェクトの資料とも捉えられますが、しっかり作品としてのクオリティがある。販売してプロジェクト資金にしていた面もあると思うけれど、単なる説明資料で終わっていません。

4. 来歴とネットワーク:作品が“関係”を連れてくる
加来:
通常のオークションは、多数の出品者から作品が集まるためラインナップに偶然性がある。一方シングルオーナーコレクションは、一人のコレクターの審美眼によるキュレーションが作用し、物語性が立ち上がるように思います。
市場的な魅力としては、来歴が明確である点が大きいです。誰の手を経てきたかは真贋・コンディションに直結し、長年一人の手元にあって世に出ていない「初い(うぶい)」作品は価値が高く評価されます。
また、来歴は直近だけでなくその変遷も注目どころ。例えば、ジェームズ・ローゼンクイスト《Untitled》は、同時代の作家、アンディ・ウォーホルが所有していたという点で特異です。あえてウォーホル作品(《Seated Cat》、《Flowers in Vase》)と並べ、来歴が示す関係を展示で示唆しています。
あと、作家同士の接点も面白いですね。例えば、吉原治良は藤田からのアドバイスにより自分なりの表現を突き詰めて具体に至ったように、作品単体の価値だけでなく関係のネットワークが立ち上がる面白さがある。

南島:
今回出品されているものはすべてコレクターの方が購入されたものなんですか?譲り受けたとかもあるのかなと。

加来:
基本的にはすべて購入されています。どこで購入されたかが分かるものについてはカタログに記載しています。

5. コレクションすること
加来:
コレクションは、集めた方自身の鏡だと思っています。まずは「好き/嫌い」などを手がかりに、自分の嗜好を掘り下げていく入口を作ってみる。オークションは二次市場のため、百貨店的に多様な作品が集まり、ひろく好きなものを探せます。そこで好きな作家が見つかったら、その作家の作品を取り扱っているギャラリーで深く知っていく、というのも良いかもしれません。
一点買うと点となり、次第に点が増えるほど見え方が変わり、時間の経過や生活の中で作品が相棒になっていきます。「私はこういうことを考えてこの年代を過ごしてきたんだな」と振り返ることができるかもしれません。

南島:
美術館時代、調査の一環で収蔵データベースに大正時代の文学者・佐藤春夫の名前を入れたら木村伊兵衛による肖像写真が出てきた。美術館が佐藤春夫を意識的に集めたわけではなく、おそらく木村伊兵衛関連の収蔵として受け入れた中に偶然眠っていたのでしょう。そういうものが後から来た人に掘り当てられて、新しいアイデアが生まれる。収蔵庫は、こうして蠢く「海」のようで、他人が様々な角度から取り上げた連関が無限に立ち上がってきます。美術館に入ってはじめて感じたのは、そういう可能性と恐ろしさが同居している収蔵庫の不思議な存在感でした。集めた側も、未来の読み替えまでは予測することはできません。そこに面白さがあると思います。

加来:
コレクションって、1回始めたら止まらなくなることもありますし、逆に1点でも手放したらもう興味がなくなってしまうというお客様もこれまでに見てきました。コンプ欲と、そのコンプが崩れた瞬間に突然興味を失うことの面白さみたいなのは、今までシングルオーナーコレクションセールを取り扱いさせていただいたときに感じた奇妙さですね。



6. 質疑応答
Q:ビュッフェやルオーで「日本っぽい」という話がありましたが、日本/海外で好まれる作家や傾向はあるのでしょうか?
A:
南島:
私が話したのは、単純にビュッフェやアントニ・クラーベが日本の60年代前後に流行ったという意味でした。「日本人的な」という意味では、実存主義的なムード、また日常的な感覚で親しみやすい風景や静物画は、日本の絵を習っている人や絵を知り始めた人たちにとっては多分手に取りやすく、共感もしやすい作品なのではないかと思います。

加来:
マーケット観点では、例えば草間彌生を取り上げると、欧米はインフィニティネット、アジアはかぼちゃが人気。前者は美術史的な文脈におけるその革命性や後世への影響を評価していて、後者はぱっと見のアイコン性があるものが好まれるなど、地域差が出ますね。
あと、日本の戦後作家は欧米からの入札も強い例があり、欧米の美術史的物差しで評価される作品は海外勢が入りやすいというように思います。

Q:もし南島さんが、この中にある作品から(諸々の事情抜きに)1点選ぶならどれですか?
A:
南島:
自分の趣味ですね。ジャスパー・ジョーンズの版画はいいのですが、ちょっとサイズが大きい。難波田の《三月の建物》は良かったと思います。さきほども触れたように、色々な要素が含まれている作品でした。今回の展示の位置的にも目に留まりやすい感じがします。

加来:
その意味で言うと展示の場所は重要ですね。
あと、先ほどのご質問にも通ずるかもしれませんが、特に日本のお客様に関しては小さめの作品を好まれる傾向というのはやはりあります。欧米のお客様はお家がそもそも広いですから、大きな作品を躊躇なく買える空間を持っているし、大きさ、壮大さやインパクトみたいなところに価値を置いているところもあります。

Q:今回の展示もこの方のコレクションの一部でしかないのだと思うのですが、この展示から、未出の作品を想像できたりしますか?
A:
南島:
時代順で見ると、確かにいくつか欠けはあるんですね。50年代に妙に具象が多い印象があるなとか、キュビスムや抽象絵画、あるいはミニマリズム周辺はここにないものがもう少しあるのかもしれない。

加来:
そうですね。ちなみに、5月に同じ方のコレクションのセールがございます。実はそちらでは日本美術がメインになっていて、点数的にはかなり多くお持ちです。よろしければまたその時にご覧をいただいたら、このコレクションの多様性も見ていただけるかと思います。

南島:
それと、コレクションを今手元にある作品の中でだけ考えようとすると、限界があるかもしれません。美術館での収集も、既存コレクションをより豊かに見せるために何を足すかというのが基本的な発想としてあります。つまりゼロベースで始まるのではないということです。
あと、自分のコレクションの外にひとつ作品を置いてみることで、いまある総体の見え方が変わることもあると思います。例えばここにモランディがあったら・フォンタネージがあったら、この展示はこういう風に見える、という話です。
皆さんがもしコレクターだとしたら、自分のものとそれ以外とが互いに響き合うことで見えてくるみたいなのが、コレクションの面白いところかもしれないですね。

Q:長期的に「残る」作家/作品の条件はあるのでしょうか?
A:
南島:
表層ではなく、作品や言説のなかにある一貫した構造(OS)があることではないでしょうか。妙な言い方になりますが、面白い作家は「30年前と言ってること同じだな」ということがあると思うんですよ。これは時代に遅れてるんじゃなくて、時代が動いてるのに変わらないし、なぜかそれで説明できてしまうという点に驚くべきなんだと思っています。勿論その時に出す例は変わる。今だったらAIの例を言うでしょうね。だけど言ってる内容をロジックだけ取ってくると同じという。
メディウムが変わってもその中核が存在していれば、いつか誰かがそれを解読できると思います。

加来:
マーケットの視点としては、より生々しい観点として、国内外の同時代的な作家、研究者、美術館、ギャラリー、批評家等のステークホルダーの多さ=ネットワークの厚みと、そしてそのネットワークがどこに繋がっているかが、残りやすさに影響すると考えています。
グッゲンハイム美術館のGUTAI展の話もありましたが、展示による再評価の後、市場がどうなったかというと、白髪作品とかのもう争奪戦になるわけですよね。美術界のステークホルダーがその作家やその運動に着目しておこうという動きがあったが故の結果なので、アートワールドのどこに属すか、そしてタッチポイントが多ければ多いほど、残りやすいとは感じています。

南島:
この問いへの答え方の違いが、正にこのダイアローグの意味な気がしてきました。すごい良い違いでしたね。
確かに、人的なネットワークもすごく大事だと思います。作品を見続けてケアし続ける人がいるかどうかは、物理的な保存の意味でも重要だと思います。
そして、いまここにいる我々も、その中のどこかにも関わっているわけであって、ある種の責任感みたいなものも大事だろうなみたいなことは、コレクションするしないは関係なく、そう思いました。

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NEWS - 2026.02.12

トークイベント「知っておきたいフジタの話 足あと・筆あと・そして人々」

シングルオーナーコレクションセール「Modern Legacy: An Important Japanese Collection of 20th & 21st Century Masters」(2026年3月、於東京国際フォーラム)にあわせ、トークイベント「知っておきたいフジタの話 足あと・筆あと・そして人々」を開催します。
東京ステーションギャラリー学芸員・若山満大氏をお招きし、本セールのメインロットである《エレーヌ・フランクの肖像》(1924年)を起点として、作家・藤田嗣治の足跡・画業・交友関係についてお話しいただきます。藤田の作品をコレクションすることの意味について考えるきっかけとなりましたら幸いです。

【開催概要】
トークイベント「知っておきたいフジタの話 足あと・筆あと・そして人々」
日時:2026年3月14日(土)11:00-12:00(受付開始:10:30-)
会場:東京国際フォーラム ホールD5(〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-5-1)
登壇者:若山満大氏(東京ステーションギャラリー 学芸員)
※事前申込制、参加無料
トークイベント「知っておきたいフジタの話 足あと・筆あと・そして人々」 参加申込フォーム – フォームに記入する
   
【登壇者プロフィール】


若山満大(わかやま・みつひろ)
東京ステーションギャラリー学芸員。主な関心領域は、日本近現代美術史および写真史。愛知県美術館学芸員、あいちトリエンナーレ2016キュレトリアルチーム、アーツ前橋学芸員などを経て現職。2025年夏には、写真をキーワードに藤田嗣治の生涯を読み解く展覧会「藤田嗣治 絵画と写真」を企画し、フジタ研究に新たな視点を提示した。そのほか、「大西茂」(2026)、「安井仲治」(2023–2024)、「甲斐荘楠音」(2022)など、独自の表現を切り拓いた異才たちの個展を多数手がけている。共編著に『Photography? End?──7つのヴィジョンと7つの写真的経験』(magic hour edition、2022)。

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NEWS - 2025.12.22

医療空間に広がる「元気をもらえる」アートのまなざし——SBIメディック×SBI アートオークション「アート×ウェルビーイング」企画展示 

アートは、日々の中で何気なく心を和らげ、前向きな気持ちをもたらす存在として近年注目されています。医療空間においても、作品が視界に入ることで緊張感がほぐれ、空間全体に穏やかな印象をもたらすことが期待されています。

SBIウェルネスバンク株式会社(以下「SBIウェルネスバンク」)と、SBIアートオークション株式会社(以下「SBIアートオークション」)は、アートを通じたウェルビーイング向上を目指す共同企画「アート×ウェルビーイング」展示を実施します。「SBIメディック」に来院される皆さまに安心感と穏やかさをお届けすることを目指し、視覚的な明るさや親しみやすさを備えた作品を選定しました。自然に視線を向けたくなり、元気を感じていただけるような作品をご紹介いたします。

1.医療空間におけるアートの役割


<SBIメディック/特別診察室>

医療空間は、来院者が緊張や不安を感じやすい環境です。診療前の待ち時間や検査直前など、心が揺れやすい状況が連続する場面が続く中で、空間の在り方は心理状態に大きな影響を与えます。こうした環境下でアートが果たす役割は、単なる装飾にとどまらず、鑑賞者の感情にそっと寄り添う"視覚的な支え”として機能する点にあります。アートがもつ色彩やモチーフ、構図は、言葉以上に直接的に心へ作用します。鮮やかな色合いや穏やかな線の動きに触れることで、鑑賞者が自然と呼吸を整え、緊張がゆっくりとほぐれる瞬間を生むこともあります。本人の意識とは別のところで静かに起こるこうした心の動きは、医療空間の質を高める一要素となり得ます。

このようなアートの作用については、国内外で研究が進んでおり、世界保健機関(WHO)が2019年に発表した報告書では、芸術が心身の双方に寄与し得る可能性について、次のように述べられています。

“The findings demonstrated that the arts can potentially impact both mental and physical health.”
(邦訳:芸術は精神的健康と身体的健康の双方に影響を及ぼし得る。)
— WHO, 2019, What is the evidence on the role of the arts in improving health and well-being? A scoping review, Summary p. vii

また、同報告書では芸術が健康的な行動変容を促す可能性についても言及されています。

“There is promising preliminary evidence from individual observational studies that people who engage with the arts are more likely to lead healthier lives, including eating healthily and staying physically active, irrespective of their socioeconomic status and social capital.”
(邦訳:芸術に触れる人々は、社会経済的背景や社会的資本にかかわらず、健康的な食事や身体活動など、より健康的な生活を送る傾向があると示す予備的なエビデンスが報告されています。)
— WHO, 2019, What is the evidence on the role of the arts in improving health and well-being? A scoping review, p.16

鮮やかな色彩や親しみやすいモチーフに触れることで、鑑賞者が自然と前向きな気持ちに切り替わることがあるという指摘は、今回の企画の背景とも呼応するものとなります。

2.企画「アート×ウェルビーイング」について


<SBIメディック/内視鏡待機室>

本展示の作品選定にあたり、SBIアートオークションでは、2025年5月に開催した「第72回SBIアートオークション|Modern and Contemporary Art」の会場にて「元気をもらえるアート」をテーマとした来場者アンケートを実施しました。実施期間は2025年5月21日(水)〜24日(土)の4日間。会場に設置したQRコードを読み取り、Microsoft Formsにアクセスする参加型形式で行い、109件の有効回答が集まりました。アンケートは、事前に選定した6点の作品と「その他」を選択肢とした1人1票の自由投票により構成し、来場者の率直な感覚を収集することを目的としました。結果を集計した作家別得票割合(参照:グラフ1「作家得票割合」)からは、得票の大小にかかわらず、一定の傾向が読み取れました。


グラフ1「作家得票割合」

自由記述を含む回答内容から抽出された主な傾向は、下記の三点です。
• カラフルで明快な色彩表現
• 親しみやすいモチーフやキャラクター性
• 軽やかでポジティブなイメージ構成

投票上位にはロッカクアヤコ、草間彌生、KAWSといった作家名が挙がりましたが、選定プロセスにおいては、得票結果のみならず、上記の視覚的傾向を含めた全体の分析を踏まえ、「自然と視線が向かい、明るい印象をもたらす」作品群を中心に構成しています。そのため、本展示では投票上位の作家に加え、同様に親しみやすい世界観を持つ奈良美智や、色彩と構図の軽快さが特徴的な村上隆の作品も紹介し、鑑賞者が心地よく作品へと向き合える展示構成を目指しました。また、展示と並行して来院者アンケートも実施し、アート鑑賞前後の気分の変化や印象に残った作品の傾向を分析し、今後の展示企画や医療空間づくりに活かしていく予定です。

3.作家・作品紹介

◆ 草間彌生(Yayoi Kusama)

<SBIメディック/内視鏡ラウンジ>

1929年長野県生まれ。草間彌生の作品は、幼少期の幻視体験を原点とし、水玉模様や網目模様を反復して用いた独自の表現で知られています。赤・黄・緑など鮮やかな色面に展開される連続的なモチーフは、“無限”や“生命の循環”といった普遍的なテーマを内包し、見る者を自然に画面へと引き込みます。また、鏡や光を取り入れたインスタレーションは、鑑賞者を包み込むような没入感を生み、その世界観を体感的に味わうことができます。本展示では、日常的なモチーフを描いた作品や、表情ゆたかな人物像が複数描かれた作品など、草間特有の幻想的なリズムと華やかさを併せ持つ作品群を紹介します。鮮烈な色彩と律動的な構図が響き合う画面には、生命感あふれる草間芸術の魅力が凝縮されています。

◆ 村上隆(Takashi Murakami)

<SBIメディック/待合室>

1962年東京都生まれ。村上隆は、日本美術に見られる平面的な表現と、アニメやマンガなどの大衆文化を接続した「スーパーフラット」理論を提唱し、国際的な評価を確立しました。遠近法を排したフラットな構成、明快な色彩、装飾性を兼ね備えた画面は、現代社会に対する批評性を含みながらも独自の美意識を形成しています。絵画・彫刻・ファッション・メディアアートなど多岐にわたる領域で活動し、作品ごとに異なるスケールと表現形式を自由に往還する点も特徴です。本展示では、花をモチーフとした華やかな作品を中心に紹介。祝祭的な雰囲気と緻密な構成が共存する村上作品は、鑑賞者に強い印象を残します。

◆ ロッカクアヤコ(Rokkaku Ayako)

<SBIメディック/内視鏡待機室>

1982年千葉県生まれ。ロッカクアヤコは、筆を使わず指や手のひらで絵の具を直接のばす独自の描画法を特徴とし、その即興性と大胆な動きが作品のリズムを形づくっています。夢のような少女像や花・動物が、鮮やかな色彩と勢いのある線で描かれ、画面には“手の動きの痕跡”がそのまま残るような生々しさと躍動感があります。描く行為そのものを作品へと昇華するような手法は、鑑賞者に作家のエネルギーが直接伝わる力強さを持っています。本展示では、象徴的な少女像を描いた作品を紹介し、ロッカクらしい伸びやかな世界観を味わうことができます。

◆ 奈良美智(Yoshitomo Nara)

<SBIメディック/内視鏡待機室>

1959年青森県生まれ。奈良美智は、大きな目や印象的な表情をもつ子どもや動物を主題に、無邪気さの奥に潜む強さや孤独、静かな感情を描き出す作品で知られています。鑑賞者は作品と向き合うなかで、内面の感情が自然と呼び起こされ、作品と静かに対話するような感覚が生まれます。本展示でも、奈良作品特有の静謐でありながら親しみやすさを感じる表情や姿勢が描かれ、鑑賞者を穏やかな余韻へ誘います。シンプルな構図の中に深みのある世界観が宿る点は、奈良作品の大きな魅力といえます。

◆ カウズ(KAWS / Brian Donnelly)

<SBIメディック/内視鏡ラウンジ>

1974年アメリカ・ニュージャージー州生まれ。KAWSは、ストリートアートを起点に、絵画・立体・大型インスタレーションなど幅広いジャンルで活動する現代アーティストです。独自のキャラクター表現、滑らかな線、鮮やかな色面、明快な輪郭線が組み合わさり、ポップアートの系譜に位置づけられる一方で、作品には独特の情緒が漂います。広告看板への加筆やタギングをきっかけに注目を集め、国際的な人気を確立した後も、常に新しい表現領域を開拓し続けています。本展示作品では、迫力ある構成や鮮烈な色彩、高い完成度によって、KAWSならではの世界観を体験できます。

◆ ミスター・ドゥードゥル(Mr Doodle)

<SBIメディック/特別診察室>

1994年イギリス・ケント生まれ。ミスター・ドゥードゥルは、下書きをせずに連続した線で画面を埋め尽くす“ドゥードゥル(落書き)”スタイルを特徴とし、ユーモアと躍動感に満ちた世界観を構築しています。キャラクターや記号が次々に連なりながら画面を埋めていく構成は、作家自身の言葉で“グラフィティ・スパゲッティ”と表現され、独特のリズムと楽しさが生まれます。本展示作品でも、モチーフが軽快に響き合い、ドゥードゥルらしいカラフルで自由な表現を味わうことができます。視線を動かすたびに新たな形が現れる作風は、幅広い鑑賞者に親しまれる要素を持っています。

◆ 東山魁夷(Kaii Higashiyama)

<SBIメディック/ラウンジ>

1908年横浜市生まれ。東山魁夷は、「東山ブルー」と称される深い青と緑の色調を特徴とし、静謐な風景描写を通じて独自の世界観を築いた日本画家です。東宮御所の壁画や唐招提寺御影堂の障壁画など数々の重要作品を手がけ、戦後日本画壇を代表する画家の一人として高い評価を受けています。
《春兆》(1988年)は、冬から春へと季節が移ろう瞬間をとらえた木版画で、淡く透き通る色彩が静かな息づかいを伝えます。繊細な筆致と澄んだ色調が調和した作品には、東山が追求した深い精神性が宿っています。

4.参考文献・脚注

【脚注1:WHO 2019 Report “What is the evidence on the role of the arts in improving health and well-being?”】
PDF:https://iris.who.int/server/api/core/bitstreams/e1cc8536-773d-446f-9822-8ae376f41415/content 
引用原文:
• “The findings demonstrated that the arts can potentially impact both mental and physical health.”(Summary p. vii)
• “There is promising preliminary evidence from individual observational studies that people who engage with the arts are more likely to lead healthier lives, including eating healthily and staying physically active, irrespective of their socioeconomic status and social capital.”(p.16)

【脚注2:WHO × Jameel Arts & Health Lab — The Lancet Global Series on the Health Benefits of the Arts (2023)】
https://www.who.int/news/item/25-09-2023-ground-breaking-research-series-on-health-benefits-of-the-arts
https://www.who.int/initiatives/arts-and-health
内容:非感染性疾患(NCDs)に対する芸術の潜在的効果、社会的処方、教育・医療・文化政策とのセクター横断的連携などを提示。
Topics include potential impacts on NCDs, social prescribing, and cross-sector collaboration across education, health care, and cultural policy.


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NEWS - 2025.09.02

INTERVIEW「アートトイから広がる現代アートの可能性──Cbrick Marketが描く新しい市場のかたち」Part 2

アートとトイが交差する世界に、今、新たな潮流が生まれつつあります。かつては「趣味の一部」と見なされていたアートトイは、いまや単なるコレクションの域を超え、ひとつの市場として確立されつつあります。セレブリティによるコレクション、グローバルブランドとのコラボレーション、そして専門オークションの登場に至るまで、アートトイは芸術性と資産価値の両面で注目を集める存在へと進化しています。
その変化の最前線に立つのが、ソウルに拠点を構えるアートトイ専門店「Cbrick Market(チェブリックマーケット)」の代表、チェ・ウォンソク氏です。SBIアートオークションをはじめ、国際的にも注目が高まるアートトイの分野において、チェ氏はコレクターと市場の間に立ち、その芸術的価値の伝達と市場形成に貢献しています。
本インタビューでは、アートトイの魅力や市場の可能性はもちろん、作品の真贋を見極める鑑識眼、作品性を捉える審美眼、そして流行に流されずに選び取る力といった、「良い選択」の基準についても深くお話を伺いました。アートトイという独立したジャンルが国際的な市場性を獲得していく中で、私たちは何を指標に作品と向き合うべきなのでしょうか。本記事では、Cbrick Marketの取り組みを通して、その考え方に触れていきます。

>>>>>Part 1

4. 著名人のコレクションによるアートトイへの影響
▷最近、アートトイがSNS上で注目を集め、特にK-POPアイドルなどの著名人もコレクションされている方が多く見受けられます。その点はどのように感じていらっしゃいますか?
セレブリティによるコレクション活動がアートトイ市場に与える影響は、非常に大きいと実感しています。実際、このような動きは最近始まったことではなく、以前から見られていました。たとえば、俳優のチャン・グンソク氏がBE@BRICKを愛用していたことで、韓国内に大きなブームが巻き起こった時期がありました。あの時に初めてBE@BRICKという存在を知った方も多かったのではないでしょうか。その後も、SE7ENやBIGBANGのG-DRAGON、T.O.Pといったアイドルたちが、自身のSNSやミュージックビデオなどでBE@BRICKやKAWSの作品を頻繁に紹介したことにより、一般層の関心が自然と高まりました。その影響は今もなお継続しています。
最近では、BLACKPINKのメンバーがLabubuのキーホルダーを使用し、その様子をSNSに投稿したことで、世界的な注目を集めました。たった一度の投稿が瞬く間に拡散され、Labubuのブランド認知と需要が爆発的に高まったことで、市場全体にも大きな活気が生まれました。このような自然な露出は、もはやマーケティングの域を超えた影響力を持っていると言っても過言ではありません。
今後もこうした現象は続いていくと思いますし、著名人の趣向が一般層の関心を喚起する重要な起爆剤として機能していくだろうと考えています。

▷SNSでの拡散や著名人によるコレクションが、アートトイ市場に与える影響についてはいかがですか?
SNSでの拡散やセレブリティによるコレクション活動は、アートトイ市場の活性化において非常に大きな役割を果たしていると考えています。先ほど挙げたLabubuの事例はまさにその代表であり、K-POPアイドルを代表するグループという強い発信力を持つ存在が紹介したことにより、国内外のメディアにも取り上げられるほどの話題となりました。その結果、それまでアートトイに関心のなかった人々にも自然と名前が知られるようになり、関連アパレルを手がけるメーカーが登場したり、取引や情報共有を目的としたコミュニティが形成されたりするなど、市場の広がりを目の当たりにしています。
このように、セレブリティによるコレクションは単なる一消費行動にとどまらず、産業や文化にも波及するポジティブな効果をもたらしています。その影響力は決して無視できないものですし、このような現象は、Labubuに限ったものではないと思います。今後さらに別のブランドやアーティストにも広がっていく可能性を秘めていると感じます。こうした変化は、アートトイ市場の裾野を広げる大きな契機となり、多様なブランドや作家が新たに注目を集めるきっかけになっていくと期待しています。

▷SNS上での広がりやアイドルによる発信が、アートトイの制作プロセスやマーケティング戦略について影響を与えていると思いますか?もし具体的な事例があれば教えてください。
確かに、SNS上でのインフルエンサーやアーティストによる発信は、アートトイの制作やマーケティングにも明確な影響を与えていると感じています。例えば、ある著名人の好みや趣向が公開されることで、それに関連したアパレルや小物を手がけるメーカーが自然発生的に現れ、それを起点にコミュニティが形成され、自発的な取引や情報交換が活発になるといった流れが生まれています。インフルエンサー一人の投稿が、市場全体に波及する力を持っていることを日々実感します。特にSNSの拡散性が加わることで、その影響のスピードと広がりは想像以上です。今やブランドやアーティストも、初期の企画段階からインフルエンサーやSNSを前提にした戦略を構築せざるを得ない時代になったと感じます。
私自身も、実店舗の運営だけでなくSNSでの発信に多くの時間を割いています。かつては店頭に足を運ばなければ見ることができなかった商品も、今ではInstagramやX(旧Twitter)でリアルタイムに紹介でき、すぐにお客様の反応を知ることができます。オフラインでのコミュニケーションも依然として重要ですが、より広い層と繋がり、新たな顧客層を開拓する上で、SNSを含めたオンラインでの発信はますます不可欠になるはずです。これからはアーティストやトイブランドも、SNSやインフルエンサーマーケティングを前提とした企画設計が求められる時代に入ったと考えています。




5. 市場動向と今後の展望
▷日本国内外のマーケット規模や価格帯の変化傾向はありますか?
韓国のアートトイ市場は、現時点ではまだ規模が小さく、大衆的な関心も限定的な段階ですが、少しずつ着実に成長していると感じています。一方、日本は長い歴史と文化的な基盤がしっかりと築かれており、トイショップの数や市場の深さ、コレクター層の厚みにおいて、明確な差があります。コレクション文化が生活に自然と溶け込んでいる日本市場の成熟度は、非常に羨ましく思います。特に東京や大阪といった大都市には専門店が集まり、様々なアーティストやブランドが活発に活動しているため、市場の活気そのものが韓国とは異なると実感しています。
韓国では、アートトイを「芸術的価値の対象」としてではなく、「投資的な側面」から捉える傾向が強く見られます。そのため、経済状況が不安定になり、景気が後退すると、市場も敏感に反応し、取引量が大幅に減少する傾向があります。実際、最近のグローバルな景気後退や消費マインドの冷え込みの影響を受け、韓国のアートトイ市場もやや停滞している印象を受けています。
さらに、国際的な情勢や貿易障壁、政治的な要因も市場に大きな影響を与えています。例えば、香港からアメリカへの輸出時に関税が引き上げられたり、物流制限が課されたりすることで、市場全体の動きが鈍化してしまうのです。こうした外部要因が解消されなければ、国際的な取引の活性化も難しく、市場の回復には時間がかかると見ています。
とはいえ、若年層を中心にアートトイへの関心は確実に高まっており、SNSを通じてアーティストと消費者が直接繋がる機会も増えてきています。その結果、韓国国内の市場基盤も少しずつ強固になってきたという手応えがあります。今後もこの流れが続けば、韓国もやがて日本のように成熟した、安定性のあるアートトイ市場へと発展していくことを期待しています。

▷デジタル領域(オンライン限定アイテム、NFT連動)の可能性はありますか?
個人的には、NFTとの連動に対してはやや否定的な立場を取っています。アートトイという存在は、実際に手に取り、目で見て、触れることで得られる感覚的な体験こそが最大の魅力だと考えています。実物が持つ質感や存在感、そして「所有する」という感覚は、コレクションの醍醐味であり、NFTのようにデジタル上で所有権のみを持つ形では、それを代替することはできません。
韓国でも一時期、NFTとアートトイを組み合わせたプロジェクトがありましたが、結局その流れは定着せず、自然と市場から消えていきました。その背景には、アートトイコレクターたちが物理的な完成度や実在性を何よりも重視しているという実態があります。やはりNFTのように「触れられないコレクション」は本質的な魅力にはなり得ないと感じています。もちろん、テクノロジーの進化によって新しいコレクションの形が生まれる可能性はあります。ただ、私としては、アートトイの価値は「実物ありき」であるという立場に変わりありません。
ただし、NFTが伝統的なコレクション市場を補完するツールとして機能する可能性はあると考えています。例えば、所有する実物に紐づくデジタル証明書や、所有履歴のトレーサビリティを担保し、アートトイの価値を証明するための仕組みとして活用される場合、それには一定の意義があるでしょう。しかしながら、それがコレクションの本質や市場の中心となるのは難しいと考えています。

▷10年後のコレクション文化はどうなっていると思いますか?
今後10年で、コレクション文化はより多様化・細分化し、それぞれの趣向に沿った形で進化していくと予測しています。かつてはKAWSやBE@BRICKのような象徴的なアイコンがマーケットを牽引していましたが、今後はそのような一極集中から脱脚し、個々のアーティストが独自の美学や哲学をもとにポジションを確立していく流れが主流になると思います。特に若年層は、自分の好みやアイデンティティを大切にする傾向が強く、知名度のある作家にこだわらず、SNSやオンラインプラットフォームを通じて、自分にとって価値のある作品を見つけていく傾向が顕著です。その結果、無名の新進作家が一気に注目を集めるような現象も増えていくと思います。
また、コレクション文化は単に「集める」だけでなく、「どう飾るか」、「誰と共有するか」、さらには「どのようにライフスタイルに取り入れるか」といった次のステージへと進化していくと感じています。インテリアとの親和性や、ファッション、音楽、テクノロジーとの融合など、多角的な文化との接続が進むことで、よりオープンでクリエイティブな楽しみ方が広がっていくはずです。
技術面でもARやVRなどの技術を通じて、自分のコレクションをデジタル空間で展示・共有する時代が訪れるかもしれません。私は今後も実物の魅力を大切にしたいと考えていますが、世代が変わるにつれて、実物とデジタルの境界がより曖昧になっていく可能性も感じています。
最終的には、これからの10年、アートトイが芸術的価値を持つだけでなく、個人の趣味やライフスタイルを表現するメディアとして確立され、多様な価格帯・ジャンルが共存する豊かなエコシステムへと成長していくことを期待しています。私自身も、そうした変化の中で、自分らしい方法でこのコレクション文化に貢献し、新たなトレンドを一緒に創り上げていきたいと考えています。

▷今後、アートトイをより幅広い層に知っていただくためには、どのような取り組みや工夫が必要だとお考えでしょうか?
アートトイの魅力に気軽に触れ、共感できる接点をいかに増やすかが、何よりも重要だと考えています。その第一歩は、SNSを通じて継続的に新作情報を発信し、様々な作家やブランドの背景を紹介していくことにあると思います。ただ新商品のリリースを伝えるだけでなく、作品に込められた作家の哲学や背景、そして実際にそのアートトイを手にした時に感じられる楽しさや喜びといった要素まで丁寧に伝えるコンテンツが求められています。そうしたアプローチによって、アートトイは単なる玩具ではなく、芸術的価値や個人の趣味嗜好を表現するメディアであるという認識を広めるきっかけになるはずです。
また、コレクターとのコミュニケーションも非常に大切だと感じています。実際のコレクションを紹介したり、コレクターがアートトイを通じて感じる感情や日常の変化を共有したりすることで、それまでアートトイに関心のなかった人々にも自然と興味を持ってもらえるようになります。こうしたストーリーテリングは、アートトイの魅力をより広く伝えるための有効な手段だと思います。
さらに、オフラインイベントの重要性も無視できません。展示会やフリーマーケット、作家との交流会、ライブペインティングなど、実際にアートトイを見て、触れて、体験できる場を提供することは、関心を深める大きなきっかけになります。韓国ではこうした文化がまだ十分に根付いていない部分があるため、私自身も今後はオフラインを基盤としたコミュニティの活性化に取り組んでいきたいと考えています。
加えて、アートトイがファッション、音楽、映画といった多様なカルチャーコンテンツと繋がっていくことで、より多くの人々に自然と浸透していくはずです。例えば、有名ファッションブランドとのコラボレーションエディションや、ミュージックビデオへの登場、映画の小道具としての起用など、様々な接点が生まれれば、アートトイはより広い文化の一部として受け入れられるようになるでしょう。最終的には、こうした地道な取り組みと多様な接点づくりこそが、市場の拡大に繋がる鍵になると考えています。

▷最後に、このインタビュー記事をご覧の皆様にメッセージがあればお願いします。
私が日頃からお客様にお話ししていることですが、「無理のない範囲で、ストレスなく、楽しみながらコレクションを続けていただきたい」ということです。趣味である以上、生活に負担をかけてまで集める必要はありませんし、自分のペースで向き合うことが最も大切だと考えています。今回のインタビューを通じて、私自身も初心に立ち返る良い機会となりました。今後も引き続き、コレクションの楽しさやアートトイの魅力を、より多くの方々に届けられるよう、尽力していきたいと思います。

インタビュイーの紹介
「Cbrick Market」に関する最新の販売情報や各種アートトイに関するご案内は、Instagramアカウント「CBRICK___MARKET」にて随時発信中。


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NEWS - 2025.09.01

INTERVIEW「アートトイから広がる現代アートの可能性──Cbrick Marketが描く新しい市場のかたち」Part 1

アートとトイが交差する世界に、今、新たな潮流が生まれつつあります。かつては「趣味の一部」と見なされていたアートトイは、いまや単なるコレクションの域を超え、ひとつの市場として確立されつつあります。セレブリティによるコレクション、グローバルブランドとのコラボレーション、そして専門オークションの登場に至るまで、アートトイは芸術性と資産価値の両面で注目を集める存在へと進化しています。
その変化の最前線に立つのが、ソウルに拠点を構えるアートトイ専門店「Cbrick Market(チェブリックマーケット)」の代表、チェ・ウォンソク氏です。SBIアートオークションをはじめ、国際的にも注目が高まるアートトイの分野において、チェ氏はコレクターと市場の間に立ち、その芸術的価値の伝達と市場形成に貢献しています。
本インタビューでは、アートトイの魅力や市場の可能性はもちろん、作品の真贋を見極める鑑識眼、作品性を捉える審美眼、そして流行に流されずに選び取る力といった、「良い選択」の基準についても深くお話を伺いました。アートトイという独立したジャンルが国際的な市場性を獲得していく中で、私たちは何を指標に作品と向き合うべきなのでしょうか。本記事では、Cbrick Marketの取り組みを通して、その考え方に触れていきます。

1. チェ様(Cbrick Marketの事業)について
▷まず改めて、Cbrick Marketについて教えてください。
BE@BRICK、KAWS、POP MARTなどのブランドトイはもちろん、世界各地のアーティストによる作品も幅広くご紹介・販売しています 。
気がつけばこの仕事を始めてから11年目に入りました。私たちは、単なる販売の場にとどまらず、趣味や情報を共有し、コレクター同士が自然に集まり交流できるような、コミュニティのような空間を目指してきました。近年、オフライン店舗が次々と姿を消していくなか、弊店が韓国におけるアートトイ文化を支える拠点のひとつになれればという想いで、日々責任感を持って営業しています。SNSやオンラインが発展した現代ですが、やはり実物を手に取り、直接対話し、交流できる場所の価値は、今もなお大きいと信じています。
ご来店いただく韓国のアートトイコレクターの皆様と市場についてお話する機会も多くありますが、皆さん口を揃えて「韓国のアートトイ市場 はまだ基盤が十分に整っていない」とおっしゃいます。コレクターや販売者の数、市場の深さや規模のいずれも未発展で、一般層の関心も限定的なため、成長スピードが遅いのが現状です。
海外のオークションで紹介されるアートトイを目にすると、その差を一層実感させられます。特に日本、香港、アメリカのオークションでは、韓国ではなかなかお目にかかれない、希少性と芸術性を兼ね備えたアートトイが継続的に登場しています。

▷これまで当社で出品されるアートトイもご覧いただいているかと思いますが、率直な印象やご感想などをお聞かせください。
SBIアートオークションに出品されるアートトイは、いつも欠かさず拝見していて、韓国ではなかなかお目にかかれないような、希少性の高い作品が多く、毎回感嘆させられています。出品作品を通じて、韓国市場とのレベルの差を実感することも多く、私自身にとっても大きな刺激になっています。
また、私たちの店舗にお越しくださるお客様にも、こうした作品を通じて世界市場のトレンドやその奥深さに触れていただきたいと常々思っています。SBIアートオークションは、出品作品の情報やビジュアルが非常に整理されており、眺めるだけでも楽しく、かつ勉強にもなる点が素晴らしいと感じています。
こうしたプラットフォームが、韓国でもより活性化されていけば——というのが私の率直な願いです。

2. アートトイの魅力
▷初めてアートトイに触れたきっかけは何でしたか?その時の印象は?
私が初めてアートトイに出会ったのは、高校2年生の時でした。当時、アパレルショップでアルバイトをしていたのですが、そのお店のカウンターにKAWSのBE@BRICK Dissected 1000%が3体並んで展示されていました。当時はKAWSという名前も、BE@BRICKというブランドも、まだ全く知りませんでした。ただ、カウンターの中央に置かれたそのビジュアルがあまりにも圧倒的で、「これは一体何だろう?すごくカッコいい!」という感情が直感的に湧き上がったのを今でもはっきり覚えています。
その瞬間の衝撃があまりにも強く、自然とアートトイに対する興味が芽生え、そこから本格的にその世界にのめり込んでいきました。当時は今のように、インターネットで海外の情報を簡単に入手できる時代ではなかったため、日本のヤフオクサイトを必死に探し、小さなサイズのアートトイから少しずつ集め始めました。
給料をもらうたびに「次はどんなアートトイを買おうか」と考えるのが楽しみで、一つひとつ集めていくうちに、いつの間にか、部屋中がアートトイで埋め尽くされていきました。あの時のワクワク感や新鮮な衝撃は、今でも鮮明に記憶に残っています。もしあの時、あのBE@BRICKと出会っていなければ、今の私は存在していなかったかもしれません。それほど、私の人生の方向を変えた特別な出会いだったと思っています。

▷アートトイを取り扱う事業を始めるきかっけはございましたか?
アートトイを仕事として本格的に始めたきっかけは、本当に偶然に近いものでした。もともとは完全に個人的な趣味であり、アートトイのコレクションは日々のストレスを癒す手段でもありました。
しかし、結婚し、子どもを迎える準備を進める中で、家の中に増え続けるアートトイについて、妻から「この部屋、いつ片付けるの?」という話が自然と出るようになり、最終的には「全部整理して部屋を空ける」と約束することになりました。ところが、いざ整理しようとすると、これまで集めてきたアートトイを手放すのが惜しくて仕方がありませんでした。そんな時、「自分の好きなこの趣味を、他の人とも共有できたら面白いかもしれない」とふと思い立ち、そこから自然とビジネスへと繋がっていきました。
最初は、純粋にコレクションを整理する感覚で始めたのですが、次第にお客様との交流が生まれ、自分の審美眼で選んだアートトイを紹介する中で、気が付けば事業としての形ができあがっていきました。結果的に部屋を片付けるどころか、もっと広いスペースで、さらに多くのアートトイを集めて紹介するようになり、それが今のCbrick Marketの原点です。趣味がそのまま仕事に繋がったという点ではとても幸運でしたし、だからこそ今でもこの分野に対する愛着は深く、店舗を運営しながらも日々楽しさを感じています。新しいアートトイと出会うたびにワクワクする気持ちは、今でも変わりません。

▷アートトイに惹かれる点はどこですか?チェ様に限らず、コレクターの方々のお声も含めて教えていただけますか?
多くの方が共感されると思いますが、アートトイは単なるおもちゃ以上の存在だと私は考えています。特にコレクターの方々が共通しておっしゃるのは、「アートトイは日々の疲れを癒してくれるヒーリングアイテムである」ということです。仕事を終えて自宅に帰り、コレクションとして飾ったアートトイをただ眺めるだけで心が落ち着き、自然と気持ちがリセットされると、よく耳にします。その瞬間は、日常の煩わしさから解放され、自分だけの世界観に没頭できる、特別な時間になるのだそうです。
私自身も全く同じです。店舗の一角に、自分の好みに合わせてディスプレイしたアートトイたちを、ソファに座ってぼんやり眺める時間が、1日の中で最も穏やかで幸福な時間です。じっと眺めているだけでも、それぞれのアートトイが持つ感性や、そこに込められたアーティストの物語、個人的な思い出が自然と心に浮かび、癒しの時間へと繋がっていきます。
癒しの対象は人それぞれですが、ある人にとっては音楽やスニーカー、お酒がその役割を果たすように、私にとってはそれがアートトイなのです。だからこそアートトイの魅力は、単なる収集の楽しさを超えて、自分だけの空間で自分を労わり、慰めてくれる存在であり、趣味や世界観を象徴するオブジェだと感じています。こうした感情的 なつながりこそが、アートトイを特別な存在にしている最大の理由だと思います。

▷アートトイを見る際に注目しているポイントはありますか?
私がアートトイを見る際に最も重視しているのは、「第一印象」です。最初に目にした瞬間、そのアートトイが持つビジュアル的なインパクト——「可愛い」「カッコいい」といった感情が、直感的に湧き上がるかどうかが重要な判断基準になります。いくら有名なアーティストの作品でも、その第一印象で心が動かなければ、自然と手が伸びないものです。
こうした直感的な反応があって初めて、「このアートトイを作ったのは誰だろう」「どんな経歴の持ち主だろう」「どのような世界観が込められているのだろう」といった興味が湧いてきます。そして徐々に、そのアートトイに込められた哲学や制作手法、アーティストのメッセージにも関心が広がっていきます。
最終的に私が購入やコレクションを決める際には、こうしたビジュアルの魅力、アーティストの背景、そして作品に込められた物語性や世界観が、どれだけバランスよく調和しているかが鍵になります。この三つの要素が揃って初めて、「手元に置いておきたい」と思える価値があると判断します。そのため私は、アートトイの見た目だけでなく、その背後にあるストーリーや哲学まで含めて、作品を深く見るように心がけています。

▷アートトイの最新情報をどのように集められますか?
アートトイに関する最新情報の大半は、現在ではSNSから得ています。特にInstagramやX(旧Twitter)は、新作情報をリアルタイムでキャッチするのに最も早く、効率的なツールだと感じています。Instagramでは、アーティスト本人やブランドの公式アカウントをフォローしておけば、新作のリリース予定や限定アイテム、コラボレーションのニュースなどをすぐに把握できるため、日常的にチェックするようにしています。
加えて、アーティストの公式ウェブサイトや、アートトイに特化したコミュニティやフォーラムも毎日のように閲覧しています。例えば「Vinyl Pulse」や「Clutter Magazine」 といった海外の情報サイトでは、市場のトレンドやレビュー、新作情報などが深掘りされていて、非常に参考になります。
世界中で日々新しいトイが発表されているため、少しでも気を抜くと、あっという間にトレンドから取り残されてしまいます。私自身、常に検索を欠かさず、気になる情報があればメモを取り、整理する習慣が身についています。こうして日々情報をアップデートしていないと、コレクターとしても、店舗の運営者としても、市場の流れについていくのは難しいと実感しています。
結局のところ、アートトイ市場で最新トレンドを追い続けるには、まさに「情報のスピード勝負」だと思います。SNSやデジタルプラットフォームの普及により、今や地域の壁を越えて、世界中の新作や流行を即座に知ることができる時代です。それだけに、より早く、より積極的に情報を収集する姿勢が、これまで以上に求められていると感じています。



3. アートトイを購入するときの視点と真贋
▷コレクションをする際に決め手となるポイントはありますか?
先ほどもお話しした通り、購入を決める際には直感的な魅力だけでなく、より具体的で実質的な基準を慎重に考慮しています。特に重視しているのは、アーティストのこれまでの活動歴や市場での評価、展示やコラボレーションの実績などです。こうした情報を通じて、作品の希少性や今後の価値上昇の可能性をある程度見極めることができます。
もう一つ大切にしているのは、価格の妥当性です。どれほど魅力的な作品であっても、市場で形成されている相場や過去の取引実績を参考にして、価格が適正かどうかを必ず確認しています。アートトイは感性的な消費であると同時に、継続的な趣味であり、ある意味では投資的な側面もあるため、市場価格に対して過度なプレミアムが付いている場合やバブル的な価格帯の作品には慎重に向き合う必要があります。
最終的に私にとってのコレクション判断は直感、情報、そして市場における合理的な価値判断。この三つが揃ってはじめて、納得のいく選択になると感じています。このバランスを大切にすることで、長く後悔せずに愛着を持って所有し続けられる秘訣になると思っています。

▷最近需要が高まっているアイテムやアーティスト・ブランドは? 国によって特徴や違いがありますか?
「Labubuの時代」と言っても良いほど、現在の市場ではLabubuの人気が圧倒的です。K-POPアーティストやセレブリティの影響もあり、ブランド認知度は急速に拡大しました。特に香港、日本、東南アジア地域では、Labubuを取り扱っていない店舗を探す方が難しいほどです。それに伴い、Labubu関連の派生商品も人気を集め、「手元に置きたい」と思わせるブランドとして確固たる地位を築いています。
また、POP MARTの勢いも依然として健在です。多様なキャラクターや限定シリーズ、手に取りやすい価格帯のおかげで、特に若年層や初心者コレクターの間で根強い支持を得ています。POP MARTは大衆性をベースにしながらも、常に新しいシリーズを展開し、市場の関心を維持し続けています。
個人的に注目しているのは、VERDYというアーティストです。ストリートカルチャーやグラフィックデザインを基盤に、多彩なコラボレーションやプロジェクトを展開しており、その可能性は、初期のKAWSを彷彿とさせるものがあります。彼の作品世界やブランドとしての拡張性が、今後どのように展開されていくのか、とても楽しみにしています。
地域ごとの傾向としては、アジア圏、特にタイやフィリピンのコレクターは購買意欲が非常に高く、欲しいアートトイであれば価格を問わず積極的に購入する傾向があります。それだけ市場も活発です。一方で、ベトナムはトレンドへの反応が非常に敏感で、人気の移り変わりによって需要が急激に変動する特徴があります。
アメリカやヨーロッパでは、コレクターの数こそ比較的少ないものの、作品性や希少性に対する基準が非常に高く、深みのある市場が形成されています。香港ではコレクターや販売者の数が多く、現地流通は非常に活発ですが、意外にも海外への流通にはあまり繋がっていない印象です。
このように、国や地域によって消費者の志向や市場の特性が異なるため、アーティストやトイブランドは、それぞれの特性をしっかり理解し、適切な戦略を立てることが重要だと感じています。今後も地域ごとのトレンドや消費者の動向を丁寧に読み解き、柔軟に対応していくことが、グローバル市場での競争力を左右する大きな要素になると思います。






▷アートトイを購入する際、信頼できる購入先を選ぶことが重要だと思いますが、どのような販売経路を通じて購入するのがおすすめでしょうか?Cbrick Marketやオークションの活用ポイントなどもあわせてお話しいただけますと幸いです。
おっしゃる通り、信頼できる購入先を選ぶことは非常に重要です。特に近年は偽物が多く出回っており、その点に対してはより慎重な対応が求められます。正直なところ、韓国ではまだ安心して取引できる専門店がそれほど多くありません。そのため、私たちCbrick Marketを訪れてくださるお客様が多いのだと感じています。弊店では、取り扱うアートトイすべてを自ら検証・管理しており、比較的安心してご購入いただけることが強みです。
また、オークションを活用することも非常に有効な手段だと思います。特にSBIアートオークション、サザビーズ、クリスティーズといったグローバルなオークションハウスでは、出品前に厳格な真贋確認プロセスが行われるため、信頼性の高い取引が可能です。もちろん、オークションという形式上、価格がやや高めになる傾向はありますが、その分しっかりとした出品審査と透明性が担保されているという点で、安心して参加できるプラットフォームだと考えています。
さらに、オークションでは市場ではなかなか出回らない希少なアートトイに出会えることも多く、コレクターにとって非常に魅力的な購入チャンネルです。競争入札によって落札するプロセスそのものももスリルがあり、特別な体験となります。ただし、オークション利用時には、掲載情報や実物の状態を細かく確認することが重要です。信頼できるオフラインの店舗と、検証体制が整ったオークションハウスの両方をうまく活用することが、安心かつ満足度の高い購入方法だと考えています。私たちCbrick Marketも、そうした基準を満たす存在であり続けられるよう、日々努力を重ねています。

▷オークションを通してアートトイを購入することのメリットについて、どのように感じていらっしゃいますか?
オークションでアートトイを購入する際に感じる最大の魅力は、やはり「希少性の高いアイテムを、思っていたよりも良い条件で落札できたときのあの爽快感」に尽きると思います。通常の取引ではなかなか出会えないような作品が出品されることも多く、長年探していたアイテムや以前から気になっていたアートトイに出会えた瞬間の高揚感は、言葉では表しきれない特別なものがあります。さらに、ライブオークションでは、リアルタイムで入札状況が変動するなかで、他の入札者との駆け引きを楽しむスリルも醍醐味の一つです。目の前で価格が上がっていく緊張感や、最後の一押しで落札が決まったときの喜びや興奮は、一般的なオンラインショッピングや店舗での購入では得られない体験です。
ただ、韓国ではまだアートトイのオークション出品数が限られているため、その点については個人的に物足りなさを感じています。日本や香港では、多様なアートトイが継続的に出品されており、文化として根付いている印象があります。一方で、韓国では市場規模や需要の面でまだ十分に発展していない印象があります。
今後韓国でもアートトイオークションの機会がもっと増え、より多くのコレクターがこの魅力を体験できるようになることを願っています。こうした文化が根付いていけば、単なる収集の楽しみにとどまらず、市場の多様性や奥行きもさらに広がっていくはずだと信じています。

▷実際にオークションでアートトイを入札・購入される際にチェックされているポイントやコレクターの目線で「見るべきポイント」があれば教えてください。
オークションでアートトイを購入する際、私が最も重視するのは作品のコンディション(保存状態)です。アートトイは単なる観賞用の雑貨ではなく、コレクションとしての価値を持つオブジェです。そのため、ほんのわずかな傷や劣化であっても、長期的に所有したときの満足度や将来的な価値に影響を及ぼします。長期的に所持したときに大きな違いが出てきます。
最初に確認するのは「再塗装の有無」です。知識がないと再塗装された作品をオリジナルの色味や質感だと誤解してしまうことがあります。これは特に見落としやすいポイントですが、再塗装は本来の価値が損なわれており、コレクター間でも評価が著しく低くなります。そのため、必ずチェックするようにしています。
次に気を付けているのは、変色です。特に白や淡い色のアートトイは、時間の経過とともに自然に黄ばむことがあり、その度合いによって見た目の印象も大きく変わります。また、接合部の隙間やヒビ、わずかな亀裂も注意すべきポイントです。長期間の展示や、不安定な環境での保管によって、構造的に弱い部分にダメージが出やすくなります。さらに、足裏の擦り傷や細かな塗装の剝がれといった小さなキズも、作品の扱われ方や保管状態を知る指標になります。
オークションでは、実物を確認できず、写真だけで判断しなければならないケースが多いため、多方向からの写真がしっかり掲載されているか、また作品の状態がどこまで詳細に説明されているかを注意深くチェックします。可能であれば、オークションの担当者に直接連絡を取り、追加の写真やより具体的な情報を問い合わせるのも有効な手段です。
結局のところ、アートトイもアート作品と同様に「ディティールが命」だと考えています。細部にわたって丁寧に確認し、慎重に判断することで、将来的にコレクションとしての価値が高まるだけでなく、手にしたときの満足感や納得感にもつながると実感しています。

▷アートトイには贋作の流通もあるとお聞きします。これまでに「贋作」について印象に残っているエピソードがございましたら、教えていただけますか。
偽物にまつわるエピソードは本当に沢山ありますが、特に印象に残っているのはタイ での出来事です。現地で事前に売主とアポイントを取り、直接会って取引する予定だったのですが、用意されていた5点中、実に3点が偽物でした。写真で見る限りはクオリティが高く、正直なところ画像だけでは真贋の見分けがつきませんでした。しかし、実際に手に取り、重さやサイズを測り、私が個人的にまとめていたKAWSのスペック資料と照らし合わせることで、偽物だと確信することができました。もしあの時確認を怠っていたら、私自身も騙されていたかもしれません。それほど最近の偽物は以前とは比べ物にならないほど精巧に作られており、塗装や仕上げも非常に丁寧です。こうした経験を重ねるなかで、私自身も独自の判別基準やデータベースを構築するようになりました。
韓国のフリマサイトでは「Cbrick Marketで購入した商品です」という一文が、一種の正規品保証のように受け取られることも多くあります。それだけ偽物が出回っているという現実を反映していると思います。そういった話を耳にするたびに、責任感を感じると同時に、市場全体においても、信頼できる真贋判定や検証体制の整備が今後ますます必要になると感じています。これからも真贋を見極めるノウハウをさらに蓄積し、お客様に更なる安心感を提供できるよう、日々努力していきたいと考えています。

▷アートトイをコレクションされる方に向けて、保管・展示の際に気をつけてほしいポイントやアドバイスはありますか?
アートトイのコレクションにおいて、保管・展示時の環境管理は何よりも重要です。まず保時には、紫外線対策が不可欠です。直射日光に長時間さらされることで、色褪せや変色が進んでしまうため、できるだけ日の当たらない場所での保管をおすすめします。また、温度や湿度を一定に保つことも大切です。特に湿気の多い季節には、素材によってはカビや素材の劣化の原因になるため、乾燥剤の使用も効果的です。
展示時には、できればUVカット機能付きのケースに入れて展示するのが理想です。また、定期的にホコリを払うことで、微細なホコリの蓄積による塗装面の劣化も防げます。塗装が繊細なアートトイには特にこうしたケアが欠かせません。アートトイは一種のアート作品です。丁寧に管理しながら所有することで、その価値を長く維持でき、手に取ったときの満足感も格段に高まります。コレクターの皆さんには基本的な保管と管理の習慣をしっかりと身につけていただきたいと思います。




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