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NEWS - 2025.09.02

INTERVIEW「アートトイから広がる現代アートの可能性──Cbrick Marketが描く新しい市場のかたち」Part 2

アートとトイが交差する世界に、今、新たな潮流が生まれつつあります。かつては「趣味の一部」と見なされていたアートトイは、いまや単なるコレクションの域を超え、ひとつの市場として確立されつつあります。セレブリティによるコレクション、グローバルブランドとのコラボレーション、そして専門オークションの登場に至るまで、アートトイは芸術性と資産価値の両面で注目を集める存在へと進化しています。
その変化の最前線に立つのが、ソウルに拠点を構えるアートトイ専門店「Cbrick Market(チェブリックマーケット)」の代表、チェ・ウォンソク氏です。SBIアートオークションをはじめ、国際的にも注目が高まるアートトイの分野において、チェ氏はコレクターと市場の間に立ち、その芸術的価値の伝達と市場形成に貢献しています。
本インタビューでは、アートトイの魅力や市場の可能性はもちろん、作品の真贋を見極める鑑識眼、作品性を捉える審美眼、そして流行に流されずに選び取る力といった、「良い選択」の基準についても深くお話を伺いました。アートトイという独立したジャンルが国際的な市場性を獲得していく中で、私たちは何を指標に作品と向き合うべきなのでしょうか。本記事では、Cbrick Marketの取り組みを通して、その考え方に触れていきます。

>>>>>Part 1

4. 著名人のコレクションによるアートトイへの影響
▷最近、アートトイがSNS上で注目を集め、特にK-POPアイドルなどの著名人もコレクションされている方が多く見受けられます。その点はどのように感じていらっしゃいますか?
セレブリティによるコレクション活動がアートトイ市場に与える影響は、非常に大きいと実感しています。実際、このような動きは最近始まったことではなく、以前から見られていました。たとえば、俳優のチャン・グンソク氏がBE@BRICKを愛用していたことで、韓国内に大きなブームが巻き起こった時期がありました。あの時に初めてBE@BRICKという存在を知った方も多かったのではないでしょうか。その後も、SE7ENやBIGBANGのG-DRAGON、T.O.Pといったアイドルたちが、自身のSNSやミュージックビデオなどでBE@BRICKやKAWSの作品を頻繁に紹介したことにより、一般層の関心が自然と高まりました。その影響は今もなお継続しています。
最近では、BLACKPINKのメンバーがLabubuのキーホルダーを使用し、その様子をSNSに投稿したことで、世界的な注目を集めました。たった一度の投稿が瞬く間に拡散され、Labubuのブランド認知と需要が爆発的に高まったことで、市場全体にも大きな活気が生まれました。このような自然な露出は、もはやマーケティングの域を超えた影響力を持っていると言っても過言ではありません。
今後もこうした現象は続いていくと思いますし、著名人の趣向が一般層の関心を喚起する重要な起爆剤として機能していくだろうと考えています。

▷SNSでの拡散や著名人によるコレクションが、アートトイ市場に与える影響についてはいかがですか?
SNSでの拡散やセレブリティによるコレクション活動は、アートトイ市場の活性化において非常に大きな役割を果たしていると考えています。先ほど挙げたLabubuの事例はまさにその代表であり、K-POPアイドルを代表するグループという強い発信力を持つ存在が紹介したことにより、国内外のメディアにも取り上げられるほどの話題となりました。その結果、それまでアートトイに関心のなかった人々にも自然と名前が知られるようになり、関連アパレルを手がけるメーカーが登場したり、取引や情報共有を目的としたコミュニティが形成されたりするなど、市場の広がりを目の当たりにしています。
このように、セレブリティによるコレクションは単なる一消費行動にとどまらず、産業や文化にも波及するポジティブな効果をもたらしています。その影響力は決して無視できないものですし、このような現象は、Labubuに限ったものではないと思います。今後さらに別のブランドやアーティストにも広がっていく可能性を秘めていると感じます。こうした変化は、アートトイ市場の裾野を広げる大きな契機となり、多様なブランドや作家が新たに注目を集めるきっかけになっていくと期待しています。

▷SNS上での広がりやアイドルによる発信が、アートトイの制作プロセスやマーケティング戦略について影響を与えていると思いますか?もし具体的な事例があれば教えてください。
確かに、SNS上でのインフルエンサーやアーティストによる発信は、アートトイの制作やマーケティングにも明確な影響を与えていると感じています。例えば、ある著名人の好みや趣向が公開されることで、それに関連したアパレルや小物を手がけるメーカーが自然発生的に現れ、それを起点にコミュニティが形成され、自発的な取引や情報交換が活発になるといった流れが生まれています。インフルエンサー一人の投稿が、市場全体に波及する力を持っていることを日々実感します。特にSNSの拡散性が加わることで、その影響のスピードと広がりは想像以上です。今やブランドやアーティストも、初期の企画段階からインフルエンサーやSNSを前提にした戦略を構築せざるを得ない時代になったと感じます。
私自身も、実店舗の運営だけでなくSNSでの発信に多くの時間を割いています。かつては店頭に足を運ばなければ見ることができなかった商品も、今ではInstagramやX(旧Twitter)でリアルタイムに紹介でき、すぐにお客様の反応を知ることができます。オフラインでのコミュニケーションも依然として重要ですが、より広い層と繋がり、新たな顧客層を開拓する上で、SNSを含めたオンラインでの発信はますます不可欠になるはずです。これからはアーティストやトイブランドも、SNSやインフルエンサーマーケティングを前提とした企画設計が求められる時代に入ったと考えています。




5. 市場動向と今後の展望
▷日本国内外のマーケット規模や価格帯の変化傾向はありますか?
韓国のアートトイ市場は、現時点ではまだ規模が小さく、大衆的な関心も限定的な段階ですが、少しずつ着実に成長していると感じています。一方、日本は長い歴史と文化的な基盤がしっかりと築かれており、トイショップの数や市場の深さ、コレクター層の厚みにおいて、明確な差があります。コレクション文化が生活に自然と溶け込んでいる日本市場の成熟度は、非常に羨ましく思います。特に東京や大阪といった大都市には専門店が集まり、様々なアーティストやブランドが活発に活動しているため、市場の活気そのものが韓国とは異なると実感しています。
韓国では、アートトイを「芸術的価値の対象」としてではなく、「投資的な側面」から捉える傾向が強く見られます。そのため、経済状況が不安定になり、景気が後退すると、市場も敏感に反応し、取引量が大幅に減少する傾向があります。実際、最近のグローバルな景気後退や消費マインドの冷え込みの影響を受け、韓国のアートトイ市場もやや停滞している印象を受けています。
さらに、国際的な情勢や貿易障壁、政治的な要因も市場に大きな影響を与えています。例えば、香港からアメリカへの輸出時に関税が引き上げられたり、物流制限が課されたりすることで、市場全体の動きが鈍化してしまうのです。こうした外部要因が解消されなければ、国際的な取引の活性化も難しく、市場の回復には時間がかかると見ています。
とはいえ、若年層を中心にアートトイへの関心は確実に高まっており、SNSを通じてアーティストと消費者が直接繋がる機会も増えてきています。その結果、韓国国内の市場基盤も少しずつ強固になってきたという手応えがあります。今後もこの流れが続けば、韓国もやがて日本のように成熟した、安定性のあるアートトイ市場へと発展していくことを期待しています。

▷デジタル領域(オンライン限定アイテム、NFT連動)の可能性はありますか?
個人的には、NFTとの連動に対してはやや否定的な立場を取っています。アートトイという存在は、実際に手に取り、目で見て、触れることで得られる感覚的な体験こそが最大の魅力だと考えています。実物が持つ質感や存在感、そして「所有する」という感覚は、コレクションの醍醐味であり、NFTのようにデジタル上で所有権のみを持つ形では、それを代替することはできません。
韓国でも一時期、NFTとアートトイを組み合わせたプロジェクトがありましたが、結局その流れは定着せず、自然と市場から消えていきました。その背景には、アートトイコレクターたちが物理的な完成度や実在性を何よりも重視しているという実態があります。やはりNFTのように「触れられないコレクション」は本質的な魅力にはなり得ないと感じています。もちろん、テクノロジーの進化によって新しいコレクションの形が生まれる可能性はあります。ただ、私としては、アートトイの価値は「実物ありき」であるという立場に変わりありません。
ただし、NFTが伝統的なコレクション市場を補完するツールとして機能する可能性はあると考えています。例えば、所有する実物に紐づくデジタル証明書や、所有履歴のトレーサビリティを担保し、アートトイの価値を証明するための仕組みとして活用される場合、それには一定の意義があるでしょう。しかしながら、それがコレクションの本質や市場の中心となるのは難しいと考えています。

▷10年後のコレクション文化はどうなっていると思いますか?
今後10年で、コレクション文化はより多様化・細分化し、それぞれの趣向に沿った形で進化していくと予測しています。かつてはKAWSやBE@BRICKのような象徴的なアイコンがマーケットを牽引していましたが、今後はそのような一極集中から脱脚し、個々のアーティストが独自の美学や哲学をもとにポジションを確立していく流れが主流になると思います。特に若年層は、自分の好みやアイデンティティを大切にする傾向が強く、知名度のある作家にこだわらず、SNSやオンラインプラットフォームを通じて、自分にとって価値のある作品を見つけていく傾向が顕著です。その結果、無名の新進作家が一気に注目を集めるような現象も増えていくと思います。
また、コレクション文化は単に「集める」だけでなく、「どう飾るか」、「誰と共有するか」、さらには「どのようにライフスタイルに取り入れるか」といった次のステージへと進化していくと感じています。インテリアとの親和性や、ファッション、音楽、テクノロジーとの融合など、多角的な文化との接続が進むことで、よりオープンでクリエイティブな楽しみ方が広がっていくはずです。
技術面でもARやVRなどの技術を通じて、自分のコレクションをデジタル空間で展示・共有する時代が訪れるかもしれません。私は今後も実物の魅力を大切にしたいと考えていますが、世代が変わるにつれて、実物とデジタルの境界がより曖昧になっていく可能性も感じています。
最終的には、これからの10年、アートトイが芸術的価値を持つだけでなく、個人の趣味やライフスタイルを表現するメディアとして確立され、多様な価格帯・ジャンルが共存する豊かなエコシステムへと成長していくことを期待しています。私自身も、そうした変化の中で、自分らしい方法でこのコレクション文化に貢献し、新たなトレンドを一緒に創り上げていきたいと考えています。

▷今後、アートトイをより幅広い層に知っていただくためには、どのような取り組みや工夫が必要だとお考えでしょうか?
アートトイの魅力に気軽に触れ、共感できる接点をいかに増やすかが、何よりも重要だと考えています。その第一歩は、SNSを通じて継続的に新作情報を発信し、様々な作家やブランドの背景を紹介していくことにあると思います。ただ新商品のリリースを伝えるだけでなく、作品に込められた作家の哲学や背景、そして実際にそのアートトイを手にした時に感じられる楽しさや喜びといった要素まで丁寧に伝えるコンテンツが求められています。そうしたアプローチによって、アートトイは単なる玩具ではなく、芸術的価値や個人の趣味嗜好を表現するメディアであるという認識を広めるきっかけになるはずです。
また、コレクターとのコミュニケーションも非常に大切だと感じています。実際のコレクションを紹介したり、コレクターがアートトイを通じて感じる感情や日常の変化を共有したりすることで、それまでアートトイに関心のなかった人々にも自然と興味を持ってもらえるようになります。こうしたストーリーテリングは、アートトイの魅力をより広く伝えるための有効な手段だと思います。
さらに、オフラインイベントの重要性も無視できません。展示会やフリーマーケット、作家との交流会、ライブペインティングなど、実際にアートトイを見て、触れて、体験できる場を提供することは、関心を深める大きなきっかけになります。韓国ではこうした文化がまだ十分に根付いていない部分があるため、私自身も今後はオフラインを基盤としたコミュニティの活性化に取り組んでいきたいと考えています。
加えて、アートトイがファッション、音楽、映画といった多様なカルチャーコンテンツと繋がっていくことで、より多くの人々に自然と浸透していくはずです。例えば、有名ファッションブランドとのコラボレーションエディションや、ミュージックビデオへの登場、映画の小道具としての起用など、様々な接点が生まれれば、アートトイはより広い文化の一部として受け入れられるようになるでしょう。最終的には、こうした地道な取り組みと多様な接点づくりこそが、市場の拡大に繋がる鍵になると考えています。

▷最後に、このインタビュー記事をご覧の皆様にメッセージがあればお願いします。
私が日頃からお客様にお話ししていることですが、「無理のない範囲で、ストレスなく、楽しみながらコレクションを続けていただきたい」ということです。趣味である以上、生活に負担をかけてまで集める必要はありませんし、自分のペースで向き合うことが最も大切だと考えています。今回のインタビューを通じて、私自身も初心に立ち返る良い機会となりました。今後も引き続き、コレクションの楽しさやアートトイの魅力を、より多くの方々に届けられるよう、尽力していきたいと思います。

インタビュイーの紹介
「Cbrick Market」に関する最新の販売情報や各種アートトイに関するご案内は、Instagramアカウント「CBRICK___MARKET」にて随時発信中。


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NEWS - 2025.09.01

INTERVIEW「アートトイから広がる現代アートの可能性──Cbrick Marketが描く新しい市場のかたち」Part 1

アートとトイが交差する世界に、今、新たな潮流が生まれつつあります。かつては「趣味の一部」と見なされていたアートトイは、いまや単なるコレクションの域を超え、ひとつの市場として確立されつつあります。セレブリティによるコレクション、グローバルブランドとのコラボレーション、そして専門オークションの登場に至るまで、アートトイは芸術性と資産価値の両面で注目を集める存在へと進化しています。
その変化の最前線に立つのが、ソウルに拠点を構えるアートトイ専門店「Cbrick Market(チェブリックマーケット)」の代表、チェ・ウォンソク氏です。SBIアートオークションをはじめ、国際的にも注目が高まるアートトイの分野において、チェ氏はコレクターと市場の間に立ち、その芸術的価値の伝達と市場形成に貢献しています。
本インタビューでは、アートトイの魅力や市場の可能性はもちろん、作品の真贋を見極める鑑識眼、作品性を捉える審美眼、そして流行に流されずに選び取る力といった、「良い選択」の基準についても深くお話を伺いました。アートトイという独立したジャンルが国際的な市場性を獲得していく中で、私たちは何を指標に作品と向き合うべきなのでしょうか。本記事では、Cbrick Marketの取り組みを通して、その考え方に触れていきます。

1. チェ様(Cbrick Marketの事業)について
▷まず改めて、Cbrick Marketについて教えてください。
BE@BRICK、KAWS、POP MARTなどのブランドトイはもちろん、世界各地のアーティストによる作品も幅広くご紹介・販売しています 。
気がつけばこの仕事を始めてから11年目に入りました。私たちは、単なる販売の場にとどまらず、趣味や情報を共有し、コレクター同士が自然に集まり交流できるような、コミュニティのような空間を目指してきました。近年、オフライン店舗が次々と姿を消していくなか、弊店が韓国におけるアートトイ文化を支える拠点のひとつになれればという想いで、日々責任感を持って営業しています。SNSやオンラインが発展した現代ですが、やはり実物を手に取り、直接対話し、交流できる場所の価値は、今もなお大きいと信じています。
ご来店いただく韓国のアートトイコレクターの皆様と市場についてお話する機会も多くありますが、皆さん口を揃えて「韓国のアートトイ市場 はまだ基盤が十分に整っていない」とおっしゃいます。コレクターや販売者の数、市場の深さや規模のいずれも未発展で、一般層の関心も限定的なため、成長スピードが遅いのが現状です。
海外のオークションで紹介されるアートトイを目にすると、その差を一層実感させられます。特に日本、香港、アメリカのオークションでは、韓国ではなかなかお目にかかれない、希少性と芸術性を兼ね備えたアートトイが継続的に登場しています。

▷これまで当社で出品されるアートトイもご覧いただいているかと思いますが、率直な印象やご感想などをお聞かせください。
SBIアートオークションに出品されるアートトイは、いつも欠かさず拝見していて、韓国ではなかなかお目にかかれないような、希少性の高い作品が多く、毎回感嘆させられています。出品作品を通じて、韓国市場とのレベルの差を実感することも多く、私自身にとっても大きな刺激になっています。
また、私たちの店舗にお越しくださるお客様にも、こうした作品を通じて世界市場のトレンドやその奥深さに触れていただきたいと常々思っています。SBIアートオークションは、出品作品の情報やビジュアルが非常に整理されており、眺めるだけでも楽しく、かつ勉強にもなる点が素晴らしいと感じています。
こうしたプラットフォームが、韓国でもより活性化されていけば——というのが私の率直な願いです。

2. アートトイの魅力
▷初めてアートトイに触れたきっかけは何でしたか?その時の印象は?
私が初めてアートトイに出会ったのは、高校2年生の時でした。当時、アパレルショップでアルバイトをしていたのですが、そのお店のカウンターにKAWSのBE@BRICK Dissected 1000%が3体並んで展示されていました。当時はKAWSという名前も、BE@BRICKというブランドも、まだ全く知りませんでした。ただ、カウンターの中央に置かれたそのビジュアルがあまりにも圧倒的で、「これは一体何だろう?すごくカッコいい!」という感情が直感的に湧き上がったのを今でもはっきり覚えています。
その瞬間の衝撃があまりにも強く、自然とアートトイに対する興味が芽生え、そこから本格的にその世界にのめり込んでいきました。当時は今のように、インターネットで海外の情報を簡単に入手できる時代ではなかったため、日本のヤフオクサイトを必死に探し、小さなサイズのアートトイから少しずつ集め始めました。
給料をもらうたびに「次はどんなアートトイを買おうか」と考えるのが楽しみで、一つひとつ集めていくうちに、いつの間にか、部屋中がアートトイで埋め尽くされていきました。あの時のワクワク感や新鮮な衝撃は、今でも鮮明に記憶に残っています。もしあの時、あのBE@BRICKと出会っていなければ、今の私は存在していなかったかもしれません。それほど、私の人生の方向を変えた特別な出会いだったと思っています。

▷アートトイを取り扱う事業を始めるきかっけはございましたか?
アートトイを仕事として本格的に始めたきっかけは、本当に偶然に近いものでした。もともとは完全に個人的な趣味であり、アートトイのコレクションは日々のストレスを癒す手段でもありました。
しかし、結婚し、子どもを迎える準備を進める中で、家の中に増え続けるアートトイについて、妻から「この部屋、いつ片付けるの?」という話が自然と出るようになり、最終的には「全部整理して部屋を空ける」と約束することになりました。ところが、いざ整理しようとすると、これまで集めてきたアートトイを手放すのが惜しくて仕方がありませんでした。そんな時、「自分の好きなこの趣味を、他の人とも共有できたら面白いかもしれない」とふと思い立ち、そこから自然とビジネスへと繋がっていきました。
最初は、純粋にコレクションを整理する感覚で始めたのですが、次第にお客様との交流が生まれ、自分の審美眼で選んだアートトイを紹介する中で、気が付けば事業としての形ができあがっていきました。結果的に部屋を片付けるどころか、もっと広いスペースで、さらに多くのアートトイを集めて紹介するようになり、それが今のCbrick Marketの原点です。趣味がそのまま仕事に繋がったという点ではとても幸運でしたし、だからこそ今でもこの分野に対する愛着は深く、店舗を運営しながらも日々楽しさを感じています。新しいアートトイと出会うたびにワクワクする気持ちは、今でも変わりません。

▷アートトイに惹かれる点はどこですか?チェ様に限らず、コレクターの方々のお声も含めて教えていただけますか?
多くの方が共感されると思いますが、アートトイは単なるおもちゃ以上の存在だと私は考えています。特にコレクターの方々が共通しておっしゃるのは、「アートトイは日々の疲れを癒してくれるヒーリングアイテムである」ということです。仕事を終えて自宅に帰り、コレクションとして飾ったアートトイをただ眺めるだけで心が落ち着き、自然と気持ちがリセットされると、よく耳にします。その瞬間は、日常の煩わしさから解放され、自分だけの世界観に没頭できる、特別な時間になるのだそうです。
私自身も全く同じです。店舗の一角に、自分の好みに合わせてディスプレイしたアートトイたちを、ソファに座ってぼんやり眺める時間が、1日の中で最も穏やかで幸福な時間です。じっと眺めているだけでも、それぞれのアートトイが持つ感性や、そこに込められたアーティストの物語、個人的な思い出が自然と心に浮かび、癒しの時間へと繋がっていきます。
癒しの対象は人それぞれですが、ある人にとっては音楽やスニーカー、お酒がその役割を果たすように、私にとってはそれがアートトイなのです。だからこそアートトイの魅力は、単なる収集の楽しさを超えて、自分だけの空間で自分を労わり、慰めてくれる存在であり、趣味や世界観を象徴するオブジェだと感じています。こうした感情的 なつながりこそが、アートトイを特別な存在にしている最大の理由だと思います。

▷アートトイを見る際に注目しているポイントはありますか?
私がアートトイを見る際に最も重視しているのは、「第一印象」です。最初に目にした瞬間、そのアートトイが持つビジュアル的なインパクト——「可愛い」「カッコいい」といった感情が、直感的に湧き上がるかどうかが重要な判断基準になります。いくら有名なアーティストの作品でも、その第一印象で心が動かなければ、自然と手が伸びないものです。
こうした直感的な反応があって初めて、「このアートトイを作ったのは誰だろう」「どんな経歴の持ち主だろう」「どのような世界観が込められているのだろう」といった興味が湧いてきます。そして徐々に、そのアートトイに込められた哲学や制作手法、アーティストのメッセージにも関心が広がっていきます。
最終的に私が購入やコレクションを決める際には、こうしたビジュアルの魅力、アーティストの背景、そして作品に込められた物語性や世界観が、どれだけバランスよく調和しているかが鍵になります。この三つの要素が揃って初めて、「手元に置いておきたい」と思える価値があると判断します。そのため私は、アートトイの見た目だけでなく、その背後にあるストーリーや哲学まで含めて、作品を深く見るように心がけています。

▷アートトイの最新情報をどのように集められますか?
アートトイに関する最新情報の大半は、現在ではSNSから得ています。特にInstagramやX(旧Twitter)は、新作情報をリアルタイムでキャッチするのに最も早く、効率的なツールだと感じています。Instagramでは、アーティスト本人やブランドの公式アカウントをフォローしておけば、新作のリリース予定や限定アイテム、コラボレーションのニュースなどをすぐに把握できるため、日常的にチェックするようにしています。
加えて、アーティストの公式ウェブサイトや、アートトイに特化したコミュニティやフォーラムも毎日のように閲覧しています。例えば「Vinyl Pulse」や「Clutter Magazine」 といった海外の情報サイトでは、市場のトレンドやレビュー、新作情報などが深掘りされていて、非常に参考になります。
世界中で日々新しいトイが発表されているため、少しでも気を抜くと、あっという間にトレンドから取り残されてしまいます。私自身、常に検索を欠かさず、気になる情報があればメモを取り、整理する習慣が身についています。こうして日々情報をアップデートしていないと、コレクターとしても、店舗の運営者としても、市場の流れについていくのは難しいと実感しています。
結局のところ、アートトイ市場で最新トレンドを追い続けるには、まさに「情報のスピード勝負」だと思います。SNSやデジタルプラットフォームの普及により、今や地域の壁を越えて、世界中の新作や流行を即座に知ることができる時代です。それだけに、より早く、より積極的に情報を収集する姿勢が、これまで以上に求められていると感じています。



3. アートトイを購入するときの視点と真贋
▷コレクションをする際に決め手となるポイントはありますか?
先ほどもお話しした通り、購入を決める際には直感的な魅力だけでなく、より具体的で実質的な基準を慎重に考慮しています。特に重視しているのは、アーティストのこれまでの活動歴や市場での評価、展示やコラボレーションの実績などです。こうした情報を通じて、作品の希少性や今後の価値上昇の可能性をある程度見極めることができます。
もう一つ大切にしているのは、価格の妥当性です。どれほど魅力的な作品であっても、市場で形成されている相場や過去の取引実績を参考にして、価格が適正かどうかを必ず確認しています。アートトイは感性的な消費であると同時に、継続的な趣味であり、ある意味では投資的な側面もあるため、市場価格に対して過度なプレミアムが付いている場合やバブル的な価格帯の作品には慎重に向き合う必要があります。
最終的に私にとってのコレクション判断は直感、情報、そして市場における合理的な価値判断。この三つが揃ってはじめて、納得のいく選択になると感じています。このバランスを大切にすることで、長く後悔せずに愛着を持って所有し続けられる秘訣になると思っています。

▷最近需要が高まっているアイテムやアーティスト・ブランドは? 国によって特徴や違いがありますか?
「Labubuの時代」と言っても良いほど、現在の市場ではLabubuの人気が圧倒的です。K-POPアーティストやセレブリティの影響もあり、ブランド認知度は急速に拡大しました。特に香港、日本、東南アジア地域では、Labubuを取り扱っていない店舗を探す方が難しいほどです。それに伴い、Labubu関連の派生商品も人気を集め、「手元に置きたい」と思わせるブランドとして確固たる地位を築いています。
また、POP MARTの勢いも依然として健在です。多様なキャラクターや限定シリーズ、手に取りやすい価格帯のおかげで、特に若年層や初心者コレクターの間で根強い支持を得ています。POP MARTは大衆性をベースにしながらも、常に新しいシリーズを展開し、市場の関心を維持し続けています。
個人的に注目しているのは、VERDYというアーティストです。ストリートカルチャーやグラフィックデザインを基盤に、多彩なコラボレーションやプロジェクトを展開しており、その可能性は、初期のKAWSを彷彿とさせるものがあります。彼の作品世界やブランドとしての拡張性が、今後どのように展開されていくのか、とても楽しみにしています。
地域ごとの傾向としては、アジア圏、特にタイやフィリピンのコレクターは購買意欲が非常に高く、欲しいアートトイであれば価格を問わず積極的に購入する傾向があります。それだけ市場も活発です。一方で、ベトナムはトレンドへの反応が非常に敏感で、人気の移り変わりによって需要が急激に変動する特徴があります。
アメリカやヨーロッパでは、コレクターの数こそ比較的少ないものの、作品性や希少性に対する基準が非常に高く、深みのある市場が形成されています。香港ではコレクターや販売者の数が多く、現地流通は非常に活発ですが、意外にも海外への流通にはあまり繋がっていない印象です。
このように、国や地域によって消費者の志向や市場の特性が異なるため、アーティストやトイブランドは、それぞれの特性をしっかり理解し、適切な戦略を立てることが重要だと感じています。今後も地域ごとのトレンドや消費者の動向を丁寧に読み解き、柔軟に対応していくことが、グローバル市場での競争力を左右する大きな要素になると思います。






▷アートトイを購入する際、信頼できる購入先を選ぶことが重要だと思いますが、どのような販売経路を通じて購入するのがおすすめでしょうか?Cbrick Marketやオークションの活用ポイントなどもあわせてお話しいただけますと幸いです。
おっしゃる通り、信頼できる購入先を選ぶことは非常に重要です。特に近年は偽物が多く出回っており、その点に対してはより慎重な対応が求められます。正直なところ、韓国ではまだ安心して取引できる専門店がそれほど多くありません。そのため、私たちCbrick Marketを訪れてくださるお客様が多いのだと感じています。弊店では、取り扱うアートトイすべてを自ら検証・管理しており、比較的安心してご購入いただけることが強みです。
また、オークションを活用することも非常に有効な手段だと思います。特にSBIアートオークション、サザビーズ、クリスティーズといったグローバルなオークションハウスでは、出品前に厳格な真贋確認プロセスが行われるため、信頼性の高い取引が可能です。もちろん、オークションという形式上、価格がやや高めになる傾向はありますが、その分しっかりとした出品審査と透明性が担保されているという点で、安心して参加できるプラットフォームだと考えています。
さらに、オークションでは市場ではなかなか出回らない希少なアートトイに出会えることも多く、コレクターにとって非常に魅力的な購入チャンネルです。競争入札によって落札するプロセスそのものももスリルがあり、特別な体験となります。ただし、オークション利用時には、掲載情報や実物の状態を細かく確認することが重要です。信頼できるオフラインの店舗と、検証体制が整ったオークションハウスの両方をうまく活用することが、安心かつ満足度の高い購入方法だと考えています。私たちCbrick Marketも、そうした基準を満たす存在であり続けられるよう、日々努力を重ねています。

▷オークションを通してアートトイを購入することのメリットについて、どのように感じていらっしゃいますか?
オークションでアートトイを購入する際に感じる最大の魅力は、やはり「希少性の高いアイテムを、思っていたよりも良い条件で落札できたときのあの爽快感」に尽きると思います。通常の取引ではなかなか出会えないような作品が出品されることも多く、長年探していたアイテムや以前から気になっていたアートトイに出会えた瞬間の高揚感は、言葉では表しきれない特別なものがあります。さらに、ライブオークションでは、リアルタイムで入札状況が変動するなかで、他の入札者との駆け引きを楽しむスリルも醍醐味の一つです。目の前で価格が上がっていく緊張感や、最後の一押しで落札が決まったときの喜びや興奮は、一般的なオンラインショッピングや店舗での購入では得られない体験です。
ただ、韓国ではまだアートトイのオークション出品数が限られているため、その点については個人的に物足りなさを感じています。日本や香港では、多様なアートトイが継続的に出品されており、文化として根付いている印象があります。一方で、韓国では市場規模や需要の面でまだ十分に発展していない印象があります。
今後韓国でもアートトイオークションの機会がもっと増え、より多くのコレクターがこの魅力を体験できるようになることを願っています。こうした文化が根付いていけば、単なる収集の楽しみにとどまらず、市場の多様性や奥行きもさらに広がっていくはずだと信じています。

▷実際にオークションでアートトイを入札・購入される際にチェックされているポイントやコレクターの目線で「見るべきポイント」があれば教えてください。
オークションでアートトイを購入する際、私が最も重視するのは作品のコンディション(保存状態)です。アートトイは単なる観賞用の雑貨ではなく、コレクションとしての価値を持つオブジェです。そのため、ほんのわずかな傷や劣化であっても、長期的に所有したときの満足度や将来的な価値に影響を及ぼします。長期的に所持したときに大きな違いが出てきます。
最初に確認するのは「再塗装の有無」です。知識がないと再塗装された作品をオリジナルの色味や質感だと誤解してしまうことがあります。これは特に見落としやすいポイントですが、再塗装は本来の価値が損なわれており、コレクター間でも評価が著しく低くなります。そのため、必ずチェックするようにしています。
次に気を付けているのは、変色です。特に白や淡い色のアートトイは、時間の経過とともに自然に黄ばむことがあり、その度合いによって見た目の印象も大きく変わります。また、接合部の隙間やヒビ、わずかな亀裂も注意すべきポイントです。長期間の展示や、不安定な環境での保管によって、構造的に弱い部分にダメージが出やすくなります。さらに、足裏の擦り傷や細かな塗装の剝がれといった小さなキズも、作品の扱われ方や保管状態を知る指標になります。
オークションでは、実物を確認できず、写真だけで判断しなければならないケースが多いため、多方向からの写真がしっかり掲載されているか、また作品の状態がどこまで詳細に説明されているかを注意深くチェックします。可能であれば、オークションの担当者に直接連絡を取り、追加の写真やより具体的な情報を問い合わせるのも有効な手段です。
結局のところ、アートトイもアート作品と同様に「ディティールが命」だと考えています。細部にわたって丁寧に確認し、慎重に判断することで、将来的にコレクションとしての価値が高まるだけでなく、手にしたときの満足感や納得感にもつながると実感しています。

▷アートトイには贋作の流通もあるとお聞きします。これまでに「贋作」について印象に残っているエピソードがございましたら、教えていただけますか。
偽物にまつわるエピソードは本当に沢山ありますが、特に印象に残っているのはタイ での出来事です。現地で事前に売主とアポイントを取り、直接会って取引する予定だったのですが、用意されていた5点中、実に3点が偽物でした。写真で見る限りはクオリティが高く、正直なところ画像だけでは真贋の見分けがつきませんでした。しかし、実際に手に取り、重さやサイズを測り、私が個人的にまとめていたKAWSのスペック資料と照らし合わせることで、偽物だと確信することができました。もしあの時確認を怠っていたら、私自身も騙されていたかもしれません。それほど最近の偽物は以前とは比べ物にならないほど精巧に作られており、塗装や仕上げも非常に丁寧です。こうした経験を重ねるなかで、私自身も独自の判別基準やデータベースを構築するようになりました。
韓国のフリマサイトでは「Cbrick Marketで購入した商品です」という一文が、一種の正規品保証のように受け取られることも多くあります。それだけ偽物が出回っているという現実を反映していると思います。そういった話を耳にするたびに、責任感を感じると同時に、市場全体においても、信頼できる真贋判定や検証体制の整備が今後ますます必要になると感じています。これからも真贋を見極めるノウハウをさらに蓄積し、お客様に更なる安心感を提供できるよう、日々努力していきたいと考えています。

▷アートトイをコレクションされる方に向けて、保管・展示の際に気をつけてほしいポイントやアドバイスはありますか?
アートトイのコレクションにおいて、保管・展示時の環境管理は何よりも重要です。まず保時には、紫外線対策が不可欠です。直射日光に長時間さらされることで、色褪せや変色が進んでしまうため、できるだけ日の当たらない場所での保管をおすすめします。また、温度や湿度を一定に保つことも大切です。特に湿気の多い季節には、素材によってはカビや素材の劣化の原因になるため、乾燥剤の使用も効果的です。
展示時には、できればUVカット機能付きのケースに入れて展示するのが理想です。また、定期的にホコリを払うことで、微細なホコリの蓄積による塗装面の劣化も防げます。塗装が繊細なアートトイには特にこうしたケアが欠かせません。アートトイは一種のアート作品です。丁寧に管理しながら所有することで、その価値を長く維持でき、手に取ったときの満足感も格段に高まります。コレクターの皆さんには基本的な保管と管理の習慣をしっかりと身につけていただきたいと思います。




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NEWS - 2025.08.13

INTERVIEW ART AT WORK:コンセプトワークとしての「推し活」展示 イー・スピリット代表 足立茂樹氏インタビュー

創造的思考や多様性への理解の促進、職場環境の改良やモチベーション向上、企業文化の醸成やブランドイメージの発信など、今日、様々な理由からアートをオフィスに取り入れる企業が増えつつあります。一方で、アート作品が多面的な価値を持つが故に、それをどのように選定し展示するべきか、企業における取り入れ方に悩まれる方も多いのではないでしょうか。
次世代の才能を世に紹介するキャスティングという事業内容とその精神を、アート作品の蒐集や展示を通じて象徴する「推し活」というユニークなお取組みをされている広告代理店を経営されている株式会社イー・スピリットの代表・足立茂樹氏に、オフィスでの作品展示の経緯や導入方法、大事にされている点についてお伺いしました。


オフィスエントランスの様子。右手壁面に金澤翔子《飛翔》(書)、カウンター上にハビア・カジェハの立体作品、中央奥に草間彌生《南瓜》、左奥に水戸部七絵の絵画が並ぶ。

「大切にしていることは弊社「e-Spirit」の想いが伝わること」
▷アートのコレクションを始められたきっかけを教えてください。
もともと、インテリアデザインがとても好きで、今ではリフォームが趣味といえるくらいになっています。広告も「好き」を形にした形で、新卒で広告代理店に就職をしましたが、独立をしました。創業から25年、また年齢を重ねていく中で「好き」が次第に色褪せていったような気がします。そんな人生の黄昏の中、アートは自分の胸にぽっかりとあいた穴をうまい具合にふさいでくれました。
現代アートとの出会いとコレクションの経緯ですが、きっかけは家族の付き合いで行った百貨店です。草間彌生さんのかぼちゃの赤ラメのプリントが売られていました。赤ラメを眺めているうちに見入ってしまったんです。頭の中で、脳みその襞がウネウネと動くような感覚を生まれて初めて感じました。良くわからないけれど、なんとも気持ちが良かった。これはすごい!いいなと思って値段を聞いたら1,500万円。今まで仕事を一生懸命に頑張ってきたし、自分へのご褒美だ。清水の舞台から飛び降りようとしたその瞬間、百貨店の方から「ポイント沢山つきますよ!ぜひ!」と言われ、「え、そんなにポイント付くんだったら、もっと安く買えるんじゃないか!?」と経営者の経済感覚を取り戻し、他に安く売っている所が無いかを探し始めました。
電話で予約を取り2週間後に生まれた初めてギャラリーという場所に足を踏み入れました。期待と不安が入り混じる初ギャラリーは、なんと中々値段を教えてもらえず、やっと教えてもらえたと思ったら途中で価格を引き上げられるという洗礼に合ってしまいました。次第に疲れてしまい、結局何も買わずに帰ってきました。
それで改めて他ならどこで買えるのかと調べていくうちに、SBIアートオークションに辿り着いたのです。 色々な作品がまるでお菓子のショーケースのように次から次に出てくるのが面白かったです。その当時娘が小さかったので、ロッカクアヤコさんの絵と娘が重なって SBIアートオークションで落札をいたしました。初めて参加したオークションでは興奮をしてしまい、エスティメート価格の上限をはるかに超えてもパドルを上げ続けました。ハンマーオークションの興奮も忘れらず、度々オークションに参加するようになりました。週末に、オンラインでポチポチとオークションに興じることはコロナ禍の気晴らしにもなり、はまっていった感じです。娘が小学生に入る際にロッカクアヤコさんの絵は手放すことになったのですが、思いがけず購入時の金額より高く売れたので、オークションの使い方、売り時みたいなものがあると感じました。


オフィス内の展示風景。ロッカクアヤコの絵画作品。

▷SBIアートオークションが初めてのオークション体験で、そこから、まずは足立様ご自身がアートにはまっていかれたのですね。
ええ。それまでは絵を購入する、ましてやそれが資産になるという考え方は持っていなかったです。もともと、勉強して準備万端で動くというよりは、走りながら考えるタイプなので、とりあえず欲しいものを買っていきました。

▷その後、オフィスでアートを展示されるようになった経緯を教えてください。
コンセプトに沿って一定のボリュームを集めると、意味が出てくることは何となく理解をしていました。オフィスを昨年移転しましたが、緊張感もありつつ居心地の良い空間を目指しました。ちょうど同じ時期、同じ渋谷に「UESHIMA MUSEUM」がOPENされました。レベルは全然違いますが、人物画のプチ美術館を目指したら面白いと思ったのがきっかけです。

▷ちょうどオフィス移転のタイミングと合致して足立様主導で展示が決まったということでしょうか。
そうです。12月に移転先が決まり、翌3月に引っ越しをしました。引っ越した時点では、絵も家具も全部は揃っていなくて、完成までおおよそ半年かかりました。
これまでにオフィスの移転は何度もしているので、テーマを形にすることには慣れていましたが今回は大変でした。私はアートの勉強をしたことがありません。唯一、広告が好きで大学から専攻をしていました。また仕事柄、人酔いをするほど人物のプロフィール資料を見ていたり、タレント人気度の定点観測をしています。
オフィスの空間づくりにアートを取り込むにあたっては、まずはコンセプトワークとコンセプトに合うストーリーを考えました。持っているアート作品を上手くストーリーに取り込めないか検討をいたしました。沖縄を代表する陶芸家・大嶺實清さんが作ってくださった青いシーサーが5年越しにちょうど届いたり、持っていたKYNEさんの作品が2枚ともブルーだったりとタイミング的に青色づいていました。偶然にもコーポレートカラーが青なので、青をベースカラーに、そして青が良く映える白を組み合わせの色にしました。白はアートの背景として便利だったので、壁は白にしました。全面、青のカーペットを敷き詰め白のソファを新調して、青と白を強調しました。
尊敬をしている大嶺實清さん、大好きな沖縄と繋がっていたかったので、カーペットの型を波型にしてエントランスを海に見立てました。沖縄には、“ニライカナイ” という海の向こうにある理想郷の言い伝えがあります。e-Spiritにお立ち寄り頂いた皆様にとって、弊社が“ニライカナイ”への入口であって欲しいという思いを込めました。


KYNEによるポートレート作品。


中央にKYNEのポートレート、ソファ左右に陶芸家・大嶺實清の青いシーサー。

▷オフィスでアートを展示するには、コンセプトやストーリーは勿論、施工・設営に関する技術的な検討・議論も必要だったかと思います。その辺りはどのように進められたのですか。
まず、SBIアートオークションの林田さんに展示の方針などをご相談させていただきました。アート展示施工のプロにもご協力をいただき、展示に関しては1センチ単位で行えたので、素人の私でも問題はありませんでした。
また、オフィスに関しての施工に関しては、かねてから懇意にしていたキッチンのリフォーム会社があったことも大きかったと思います。最初は自宅のキッチンリフォームでお世話になった会社さんなのですが、キッチンの大工仕事は細かく精密で、それ以外のリフォームもどんどん頼んでいきました。切れ目なく様々な発注をさせてもらうことで、細かいことを相談に乗っていただける関係性を作っていきました。

▷コミュニケーションをしっかり取れる業者さんの存在は重要ですね。これまでにご自宅と会社、両方での作品設置のご経験を踏まえて、どのようなことを意識されましたか。
まず、家は会社と違って好きなものだけを飾れば良いですが、家は家で大変です。会社以上に部屋の役割が細かく違いますので、きめ細かさが必要でした。リビングには人物画があっても良いですが、寝室に人物画があると少し落ち着かないので風景画や抽象画を合わせるなどです。家に飾るアートは一見、好き嫌いの判断なので簡単そうですが、そうでもなかったです。まず、家族に伺いをたて時間をかけ丁寧に対応いたしました。(笑)
オフィスですが、オフィスは仕事場ですので「アートを飾る目的」を意識しました。
社外の大切なお客様は無論のこと社員も含めて社内外の全ての利害関係者を称するステークホルダーへの広報が昨今大切にされてきています。そのステークホルダー・リレーション(SR)対策として、当社の存在意義、パーパスを伝えらることが出来る場所が、エントランスや応接室、会議室だと思っています。
オフィスのエントランスや応接、会議室等は訪問客も多く、会社の姿勢をアピールできる恰好の場です。我が社の会議室にはオークションで安く手に入れることが出来たバンクシーが飾られています。私は個人的にはバンクシーがそれほど好きではありません。バンクシーはアートを政治表現に利用している様に見えるからです。アートには善悪や理由ではなく、心を揺さぶるものを求めているからです。ただ、バンクシーはポピュラーであり、採用面談の会話のきっかけになるので飾っています。この話をすると、損得を上手く天秤にかけて、ちゃっかりしていると笑われますが、私のオフィスアートの基本は、「二粒美味しい。」です。一粒目は、会社のブランディングとPR効果。二粒目は、投資側面。両方美味しくないと意味がないと思っています。


会議室内の展示風景。バンクシーの作品。

ステークホルダーに提示するパーパスとしての「推し活」
▷オフィスで作品を展示することの意味について、どのようにお考えですか。
広告の世界では、著名イラストレーターとコラボレーション的なことは良くあります。有名な方ですとそれ相応の費用が掛かりますが、費用以上のPR効果を見込んで依頼するわけです。アートは投資的側面もありますが、投資の目的だけだと、折角のアートが勿体ないですし、ハイリターンも望めないのではと考えます。たとえ、購入したアートの市場価値が多少下がったとしても、PR効果のプラス側面でバランスが取れるかを考慮しています。
ただし、応接室のアートだけで高級外車が買えてしまうので、市場価値が大幅に下がってしまっては日々汗を流して働いてくれている社員に申し訳が立ちません。お洒落なところで働きたいというプラスの側面はあるものの、最終的な損得を見極めないと「社長の趣味」で終わると感じています。ちなみに購入の基準は、全体のコレクション全体像を見ながら、個別作品は価格が下がりにくそうなものを中心に購入をしています。今後、作品の取得価格と現在の評価額を公表することは緊張感もあり、面白いのではないかと思っています。

▷御社では「推し活」をキーワードに、事業活動とアート作品の蒐集や展示を結び付けておられますが、そういったテーマやストーリーは当初からあったのでしょうか。
「推し活」というキーワードまで考えていたわけではありませんが、広告とアートの結びつきは強く、アート作品をオフィスに取り込むことは、会社にとって有益だと思っています。キャスティングを仕事にしており、人に興味があります。結果、意図せずとも人物画を中心に購入していました。ただ、草間彌生さんの作品は外せなかったです。結果、自分の好きなものや偶然の出会いなどを加えていくと計画的というより、紆余曲折がありました。ただ、そんな中でも、コレクションを一つのストーリーとして捉え、文章を書くときの起承転結を考慮しながら購入を調整していきました。
すると、自分のアート購入のコンセプトの輪郭がぼんやりと見えてきました。それをステークホルダー・リレーションの考え方に当ててみると、「推し活」というキーワードが思い浮かんできたというのが正直なところです。最初から、結果のために逆算が出来ていた訳ではありません。

▷展示に対して、どういった反応がありましたか。
反響はとても大きいです。「素敵」「すごい」「儲かってそう」が3大反応でした。その中で、「儲かってそう」はネガティブな意味・揶揄も少しあると思いますが、飛び抜けることを優先しました。また、「推し活」という大義で多少なりともネガティブ面を払拭できているのではないと感じています。

▷ご想定と異なる反応などはありましたか。
第三者の目線は大切です。書家の金澤翔子さんが書き下ろして下さった書、『飛翔』については、世の中の若い才能が世界に羽ばたくことを祈ってエントランスの正面に飾ってありますが、「イースピリットさんが『飛翔』されるんですね」と社是・社訓の様に受け取られてしまったことがありました。それに対しては、誤解がないように主旨を説明するチラシを作りました。このように、様々な受け取られ方があるからこそ、丁寧に真意を伝え続けていくということが、とても大事だと思います。その対象は、社員も含むステークホルダー全員に対して意識しています。


ハビア・カジェハの立体作品。


アート展示の趣旨と背景を説明するチラシ。

▷設置後、作品の展示替えを実施・検討されたりはしていますか。
展示物を入れ替えてはいますが、全体的な模様替えは今のところ考えていません。見ている方を飽きさせないように展示に変化をつける必要性は感じるものの、目的は展示そのものではなく、SR対策です。会社のパーパスは変化しないため、今後の変化は、ネクストブレイクのコレクションの定点観測的が出来るような展示になっていくかと思います。

▷足立社長はオーナー社長ですが、例えば従業員の立場で、アートを取り入れたい企業の担当者に任命された場合、なにを買うか・飾るかなどを決め、会社の資産形成に携わるのはなかなかにハードルが高いと感じられるのではないかと想像します。足立様は、資産としてのアートをどう考えられますか。また、その点でどなたかのアドバイスを得るということもあったのでしょうか。
資産形成という観点で難しさはあると思います。アートは値段も高く、市場価値の変動があります。また、会社で購入される場合は、固定資産になりますので、バランスシートを重たくさせることがあります。
私の場合は、税理士に相談をいたしました。アートに関しての価値は分からないものの、財務的な助言を貰いました。また、SBIアートオークションの林田さんには、アートの市場価値に関しての助言を貰いました。
ご承知の方も多いとは思いますが、税務的に、減価償却が出来ない固定資産となるアートと減価償却が可能なアートがあります。多くの作品は減価償却が出来ない固定資産となるものが多いです。結果、財務諸表的にはリセールをするまでは、定期的な収益を生まない固定資産となるので、財務的に余裕をもって購入をすることが必要だと感じました。その一方で、若手人気作家のユニーク作品は減価償却が可能な価格の作品もありますのでお勧めが出来ます。
資産形成という意味では人気作家の作品が全て上がるというよりは、人気作家の人気のシリーズの価格が上昇する傾向にあると思います。そこを分かる様になるには、まずは好きなものを選んで自分の軸をつくる。そして、自分軸と市場価値(市場軸)のずれを把握すると、その差分を自身の癖と把握すれば客観的な評価ができると思っています。これは、本業のキャスティングで会得した技術なので、応用が利くと感じました。
プリント作品は、価格の上下が激しいと感じています。個人的には、人気アーティストを、エスティメート価格の下限で購入できるタイミングがあれば購入しています。
ポートフォリオは3分割。
オークションに関してはネット参加が断然良いと思っています。下見会は情報収集のために行きますが、オークションは会場には行きません。会場で見ると浮かれますし疲れます。移動しながら見られるスマフォにイヤホンを付けて「ながら視聴」をします。必要だったら音だけ聞いて相場観を掴む方法はありだと思いました。また世界全てのオークション価格を見られる有料アプリがあるので活用をしました。ネクストブレークに関しては、直接購入をトライしました。人気作家の直接購入の方法ですが、開催イベント情報にアンテナを張り、なるべく早く馳せ参じ、譲っていただきました。決して諦めず、欲しいという想いや熱意に尽きると思っていますが、仕事と全く同じだと思うと、苦笑せざるをえません。
結論ですが、アートでの資産形成はかなり難しいと思っています。なぜかというと好きなアートを購入しているので、どうしても保有し続けたくなります。資産形成という意味では、未練を断ち切る力というか、手放せる力が大切だと思います。結局、その力を養うには、売った買ったを繰り返し行って、自分自身をプロ化して慣れるということがポイントではないかと思っていますが、アートを純粋に楽しむことから仕事化しそうで怖いです。

▷展示されている作品が全体として会社のあり方・思想を象徴している点に、オフィスにアートを取り入れることの価値が発揮されているということですね。
私が思うオフィスアートですが、「次世代を応援する企業」というコンセプトであれば、どの企業でも大義に使え、PR効果を狙えると思います。また、資産形成の可能性もある上に、若手育成のメセナとして、「三粒美味しい」素晴らしい企業活動だと思っています。
当社における「推し活」とアートの取組みは、今のところ上手くいっていると思います。会社のパーパスを補完する意味でアートがある。そのブリッジのキーワードが「推し活」です。ストーリーの整合性が取れれば、たとえ市場で評価が確立されていないアーティストの作品でも、コレクションに組み込んでいけると思っています。次世代への投資は、とても大切なことだと思っています。


オフィス内の展示風景。手前に水戸部七絵、奥に友沢こたおの作品。

▷最後に、「推し活」はじめご活動の展開について、足立様の見据えておられるところを教えてください。
今後はやはり若い世代を応援したいです。世の中はどんどん複雑になってきています。その上、温暖化で気候変動も予想されます。とても、予想しにくい自分たちの将来に対して若い世代は困っています。
公衆衛生、医療技術、予防医学等から、人生は100年時代に入ってきました。長いです。余生も長いです。従前よりも現実的で、計画的な人生設計が必要だと感じています。
当社が行っているキャスティングは人を「選ぶ」仕事だと思われがちなのですが、実は、一人一人の良さを見つけることがキーになっている様な気がします。どんな相手でも、まずは相手の話を聞き、相手に寄り添う。キャスティングという仕事で得た副産物は「人を育てる」こと。自分の若い頃苦労していた「どう生きるのか」今風にいうと「人生のキャリアパス」を若い世代と一緒に考えることをライフワークにしたいと思っています。
アートは私にとってかけがえのないものになりました。魂を削って作品づくりをされるアーティストの皆様に心より敬意を表します。そして私をアートという素晴らしい世界に導いてくださったSBIアートオークションの皆様、関係者の皆様に心より感謝いたします。


インタビュイー紹介


足立茂樹氏と金澤翔子《飛翔》。

足立茂樹(あだちしげき)1968年生まれ
高校卒業後、米国へ留学。Portland State Univ.にてビジネス学部マーケティング学科卒業後、博報堂に入社。2000年に株式会社イー・スピリットを創業。米国の体系的なキャスティングシステムを日本に導入し独立系のキャスティング会社として最大手。2024年度に「キャスティングの教科書」広告戦略の本が発売され、紀伊国屋書店のビジネス書で1位を獲得。広告以外では、作家、渡邊淳一氏の広報を長く務めた。www.e-spilit.jp


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NEWS - 2025.07.03

日韓をつなぐアートフェアの仕掛け人 ─PLAS Art Fair ディレクターが見つめる市場の現在地─

2025年7月、グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)にて、立体芸術に特化した国際アートフェア『Study x PLAS: Asia Art Fair』が初開催されます。ソウル発の「造形アートソウル(PLAS)」と大阪拠点の「Study」がタッグを組み、日韓国交正常化60周年の節目に日本で初めて共同開催する本フェアでは、韓国からは40を超えるギャラリーと100名を超える作家が参加いたします。大型インスタレーションや体験型ワークショップ、セミナーなど多彩なプログラムを通じ、来場者は立体作品の新たな魅力を心ゆくまで体感できます。今回はPLAS代表シン・ジュンウォン氏に、これまでのPLASとしての歩みや日本進出にかける想い、そして今後の展開についてのビジョンを伺いました。

1. ご経歴とPLASについて
▷これまで韓国のアートマーケットを中心にご活躍され、韓国美術市場の発展に大きく寄与されてきたと存じます。改めてこれまでのご経歴と、美術業界に入られたきっかけについてお聞かせいただけますでしょうか。
美術業界に足を踏み入れたのは、聴覚障害を持つ兄の存在と、母が1987年に江南で開廊したチョンジャク画廊がきっかけです。
母は、兄を一般校に通わせることで口語を学ばせると同時に、美術という言語で世界とつながらせたいと考え、兄はその後、彫刻を専攻し、博士号を取得しました。母は兄の制作活動を支えるために画廊を立ち上げ、週末になると、私は母に連れられ、展示設営や撤収を手伝っていました。兄の苦労を目の当たりにしながら、展示会や芸術の裏側を自然に学びました。
大学では経営学を、大学院では経済学を学び、卒業後は一般企業に勤務しましたが、母の引退を機に2009年頃から画廊運営を本格的に引き継ぎました。兄の作品を支える日々を通じ、「アートは鑑賞対象ではなく、人生を賭けた労働なのだ」と痛感しました。

▷PLASは、どのような経緯で設立に至ったのでしょうか。
転機は2012年、スイス・Art Baselの「Unlimited」セクションを現地で見たときです。大型インスタレーションが鑑賞者と物理的に交わ空間と彫刻作品の圧倒的な迫力、存在感に衝撃を受け、「なぜ韓国にはこうした場がないのか」と考えました。それが、PLASの出発点です。
当初は同じ規模の展示を実現するのに10年はかかると思いました。まずは会場選びから始め、ソウル中の展示スペースを比較検討し、交通アクセスや搬入動線、設置条件などを踏まえ、COEXを会場に定め、2016年にPLASを正式にスタートさせました。
当初、絵画中心の韓国美術市場で立体作品を前面に押し出すアートフェアが成立するか懐疑的な声も多くありましたが、それでも最初の一歩を踏み出しました。初年度は投資資金の大半を失いましたが、体験型展示や大型インスタレーション、子供向けワークショップなど、自分がやりたかった企画をすべて詰め込み、立体芸術の豊かさと可能性を来場者に示すことができたと思います。

▷現在も成長を続けているPLASの理念と目標について教えていただけますか。
PLASが最も大切にしていることの一つに、すべての参加ギャラリーに必ず1名以上の造形作家の作品を展示してもらうという運営原則があります。これは立体芸術を中心とするPLASのアイデンティティを明確に示す、独自の運営原則であり、他のアートフェアとの差別化を図る上で重要な基準となっています。
韓国の美術市場は依然として平面作品に偏りがちで、立体作品は輸送や設置の制約、高いコストがボトルネックとなり、展示機会が限られてしまいがちです。このような構造の中で、造形作家は自身の作品を発表する場を十分に確保できず、創作活動の継続自体が難しくなるという課題に直面しています。
PLASは、このような課題に対し、立体作品が市場に継続的に露出・流通できるエコシステムの構築が重要であると考えました。一定の割合で立体作品の展示を義務づけることで、造形作家の持続的な創作活動を実質的に支援しています。
さらに国内にとどまらず、カナダのArt Vancouver、台湾のOne Art Taipeiとブース交換を行い、2026年にはアメリカ・ロサンゼルスのアートフェアとの連携も進行中です。こうした国際的な協力は、造形作家がPLASを通じて海外市場に進出し、グローバルなアートシーンで安定的に紹介される循環を生み出す重要な取り組みとして考えています。

2. 日韓国交正常化60周年を迎え、日本でアートフェアを開催する意義
▷Study x PLAS: Asia Art Fairについて、また今回の日本開催が実現した経緯についてもお聞かせください。
Study x PLAS: Asia Art Fairは、ソウルのPLASと大阪を拠点とする新進アートプラットフォーム「Study」が共同主催する国際アートフェアです。日韓の立体アートを中心とした交流を拡張するための新たな試みであり、本プロジェクトはPLASがこれまで積み重ねてきた海外交流の延長線上にあります。
PLASはこれまで、台湾のOne Art Taipeiとのブース交換による連携を通じて、海外交流を重ね、その過程で日本のギャラリーとも接点が生まれました。日本のアートマーケットに対する関心は、継続的な対話を通じてより具体化し、2023年12月には大阪のStudyアートフェアに参加しました。Study代表の鈴木さんと出会い、翌年の2024年にはPLASの展示会にStudyを招待し、日韓のアート交流に関する議論をさらに深めました。
こうした相互交流を重ねるうちに、日韓の立体アート交流の場を共同で立ち上げる機運が高まりました。さらに韓国文化体育観光部主催の国内アートフェア海外進出支援事業からの予算支援を受けることが決定したことで、プロジェクトが具体化しました。
2025年の大阪・関西万博や大阪関西国際芸術祭の開催、そして日韓国交正常化60周年という歴史的節目が重なる絶好のタイミングを捉え、大阪での開催に至りました。国内外からの注目が高まりや本アートフェアが単なる展示の場にとどまらず、日韓間の文化・芸術交流を深めるための最適な舞台になると期待しています。

▷日韓国交正常化60周年を迎え、両国の美術関係者が一堂に会する本イベントは、両国にとって大きな意味があると考えます。今回のアートフェアを準備するにあたって、特に意識された点があれば教えてください。
60周年という歴史的節目の年に開催するアートフェアを単なる記念行事に終わらせず、持続可能な交流につなげることを重視しました。政府関係者や報道関係者、コレクター、アート関係者など多様なステークホルダーを幅ひろく招待し、日本の美術関係者と韓国からの訪問者が直接意見交換できるネットワーキングの場を複数設けています。両国の業界関係者が一堂に会する機会は稀だからこそ、業界関係者に限らず一般来場者に向けても門戸を開くことで、文化外交の側面も担う新たなプラットフォームにしたいと考えました。

▷両国のアーティスト同士の関係性やコレクター間の交流を広げる構成として、具体的にどのようなポイントを意識されましたか。
韓国の現代美術を多角的に紹介することを最も意識しました。まず出品作品の約8割を韓国人作家の作品に充て、多くの作家に来場してもらう予定です。来場者が作家から直接制作背景や意図を聞ける場を多数設定し、鑑賞を超えたより深い対話を促します。
また、日本での韓国ドラマ人気や韓国カルチャーへの関心を踏まえ、女優ハ・ジウォンさんの絵画特別展も企画しました。ご本人にも会場でトークをしていただくことで、大衆性と芸術性を両立した展覧会を実現し、韓国アートへの関心を広げる契機となることを目指しています。
さらに7月20日夜には、アーティストやコレクター、文化関係者が一堂に会するレセプションを開催し、持続的なネットワークの構築や両国間の文化的理解の深化につながることを期待しています。

3. 韓国のアートマーケットについてプロフェッショナルが持つ視座
昨年、自社初の海外下見会を韓国・ソウルで開催するなど、当社にとっても韓国は重要な場所のひとつです。そこで、長年韓国の美術市場を見てこられた立場からお話を伺います。

▷韓国のマーケットの特徴と、アーティストやギャラリーへの影響について教えてください。
韓国美術市場の最大の特徴は、急速かつ大衆主導型で成長している点です。ほんの数年前までは、アートは富裕層や専門家向けのものとして見られていました。しかし、近年の海外旅行の一般化に伴い、多くの旅行者が旅先で美術館を訪れるようになり、その体験を通じてアートと接点が徐々に増えていきました。たとえばフランスに行けばルーブル美術館を訪れるように、文化・芸術的な体験が日常化したことで、アートに対する心理的なハードルが下がり、その関心が次第に国内のアートマーケットへと向かうようになりました。
「家に絵を飾りたい」という新しい大衆的ニーズの形成やその高まりは、作家やギャラリーの活動にも大きな影響を与えています。ギャラリーは10万円以下、100万円台、1,000万円以上など、コレクターの購買力に応じた作家を選定するため、価格帯ごとにポートフォリオを戦略的に構築しています。これらの動きにより、市場はより専門化・細分化していく傾向が顕著になってきています。
このような構造的変化は、結果として市場基盤を強化し、長期的な安定性と持続性を高めていると考えられます。ヨーロッパにおいては、数百年にわたる文化的土壌の上に現在のアートマーケットの体制が築かれてきましたが、韓国は戦争と再建という近現代史の断絶を経て、わずか数十年でここまで急速にアートマーケットを成長させてきた点において、注目すべき動きであると感じています。

▷コレクターも国によって違いがあるかと思いますが、韓国のコレクターの特徴や購買スタイルの傾向、印象的なエピソードを教えてください。
あくまで個人的な観察に基づく意見ではありますが、韓国のコレクターは、トレンド感度が非常に高く、特にコロナ禍以降は20〜30代の若いコレクターが台頭しました。
また同時期には、美術品を単なる鑑賞対象としての枠を超え資産として捉え、将来的な価値の上昇を見込んで収集する「アートテック(Art-Tech)」という概念が広まり始めました。アートテックとは、アートと投資を組み合わせた造語で、韓国では比較的早い段階で一般層にも浸透した新しい消費スタイルです。2021年に元サムソングループ会長李健熙さんが自身の大規模な美術品コレクションを国に寄贈したという報道が追い風となり、美術品が経済的価値を持つ投資資産として認識されるようになったと考えられます。
実際、人気作家の作品は展覧会の開始と同時に完売するケースが相次いでいます。印象深い例として、2022年のPLAS展で、朝7時から並び作品を購入されたコレクターの方の熱意を今でも鮮明に覚えています。

▷最近の韓国の美術市場において、価格帯の変化や人気なアーティストの傾向について、特に顕著だと感じる点があれば教えてください。もし近年急激に評価が高まった作家がいる場合、その変化の背景について、どのように考えられていらっしゃいますか。
近年の韓国美術市場では、20〜30代の若いコレクターの影響力が著しく高まっています。彼らが注目する作家は、短期間で急速に市場での評価を高め、鑑賞目的だけでなく投資の観点からも作品を選ぶ傾向が強く見られます。その結果、市場において、安定した高い需要と価値を保つアーティスト層が形成されつつあります。例えば、長期的に安定した評価を得るユン・ヒョングンさんやパク・ソボさんのような単色画の巨匠作家は、信頼資産として支持される一方、SNSを駆使して市場反応を素早く得る若手作家は、流通スピードが速く、将来性のある成長株として注目されています。
SNSを活用したプロモーションや観客との直接的な交流が国内外への市場拡大において決定的な役割を果たしており、デジタル基盤のコミュニケーションが海外ギャラリーとの接点づくりにも大きく貢献しています。こうした形での海外進出は、作家が国内市場においても安定的な地位を築く上で、極めて重要な要因となっています。
例えば、今回の Study x PLAS: Asia Art Fair に参加するビビ・チョさんは、韓国国内での高い人気と評価を得ており、パリのギャラリーと専属契約を結んで活動しています。台湾のArt TaipeiやパリのAsia Nowでの展示を通じて、国際的な評価を着実に高めています。
このような動きは、韓国国内のコレクターによる継続的な投資と関心が、有望なアーティストを国際舞台へと押し上げる原動力となっており、海外での評価は再び国内マーケットでの信頼と安定性につながるという好循環を生み出していると考えられます。

▷国際アートフェアFriezeの進出は、韓国の美術市場に大きな影響を与えたと思いますか。実際に感じた変化や印象的なお話があればお聞かせください。
Friezeの韓国美術市場への進出は、単なるグローバルブランドのアートフェアの参入にとどまらず、韓国の美術市場の地位を転換させた重要な契機であったと考えています。
それ以前は、KIAFが韓国を代表するアートフェアでしたが、参加ギャラリーのほとんどをアジア圏のギャラリーが占めており、韓国の現代美術を欧米市場に紹介するには限界がありました。しかし、Frieze SeoulがKIAFと共同開催されるようになってからは、国際的な大手ギャラリーが多数参加し、欧州や北米のコレクターがソウルを訪れるようになり、国際的なアート流通の一翼を担う存在として認識され始めました。
特に印象的だったのは、Friezeの運営方式を通じて、国内のギャラリーやアートフェアがグローバル・スタンダードを急速に取り入れる傾向が出てきた点です。展示企画の完成度、VIPプログラムの構成、作品紹介のスタイルなど、あらゆる面においてグロバルマーケットを意識した専門性と体系性が導入され、韓国の美術市場の成を強く促しました。
また、コレクター層にも明確な変化が見られ、Frieze Seoul開催以降、既存の国内コレクターだけでなく、欧米の主要なコレクターが韓国を訪れる機会が急増しています。
これらの一連の動きは、作家、ギャラリー、文化機関のすべてに新たなチャンスや挑戦をもたらしており、韓国の美術市場がローカルマーケットではなく、グローバルマーケットの一部としての性格を備えるプロセスだと感じています。

▷アートウィークを取り巻く雰囲気や熱気は、韓国と日本でかなり異なる印象を受けます。韓国のアートウィークを生み出した文化的、もしくは制度的な背景などはあるのでしょうか。
韓国と日本のアートウィークには、明確な温度差があります。韓国ではアートフェアやアートウィークが文化イベントとして消費される傾向が強く、都市全体が一大フェスティバルのように賑わいます。一方、日本では静かで洗練された鑑賞体験が好まれる傾向があり、作品そのものに集中する美術文化が根付いています。これは、単なる運営スタイルの差というより、両国の文化消費のあり方そのものに起因する構造的な違いだと考えます。
例えばArt Basel Miami Beachでは、12月の1か月間で20~30のアートフェアが同時開催され、昼は作品鑑賞、夜はネットワーキングイベントやパーティーが開かれるなど、アートが日常生活と一体化したフェスティバルとして機能します。
韓国のアートウィークもこれに似た方向へと進化しており、美術鑑賞だけではなく、ライフスタイルと結びつけた文化的体験として拡張している点が特徴的です。
PLASでは、展示鑑賞だけにとどまらず、来場者が会場の館内外の書店や映画館、レストランを巡って一日を過ごす都市型ライフスタイルが自然と根付きつつあります。これは、急速な都市化と高いコンテンツ消費意欲、SNSを通じた情報拡散力が相まった結果です。
また、KIAFのアートウィーク期間中のアートナイトプログラムは、一般来場者向けにギャラリーを夜間開放し、飲食を交えながら自由に交流できるコミュニティ型イベントとして定着しています。
こうした取り組みは、アートそのものよりもアートを中心とした総合的な文化体験を提供し、短期的な集客を超えて消費層の裾野を広げ、アクセスのハードルを下げる効果を生んでいると感じています。

4. Study x PLAS: Asia Art Fairについて
▷今回の開催にあたり、ご苦労された点や印象的なエピソードなどはありますか。
海外でのアートフェアには想定外の難題がつきものですが、今回は韓国と日本の法制度や通関手続の違いが最大の課題でした。特に、関税・保険・契約書条項の解釈にズレが生じ、一時はスムーズに進行しない場面もありました。
輸送面では、日本側の通関手続や法的要件が韓国側と異なっていたため、意味を正確に理解するまでに時間を要しました。しかし、日韓それぞれの実務チームが密に協議を重ね、最終的には齟齬なく調整することができました。
特に印象的だったのは、契約書の確認中に起こった出来事で、反社会的勢力の排除条項の必要性が韓国側には馴染みが無く、「なぜこのような内容が必要なのか」と一時的に戸惑いが生じたことです。その後、日本の法的・社会的背景について丁寧な説明を受け、その意図を理解することができました。今思えば、これは文化的な違いに起因する貴重な経験であったと感じています。
両者が互いの違いを尊重しながら円滑にコミュニケーションを図ることができたと感じており、最終的に両陣営の信頼関係が強まりました。PLASとStudyはそれぞれ韓国と日本で新しい潮流を生み出しているプラットフォームであり、共通の問題意識と協業に対する意欲が非常にうまく噛み合ったことが、全体の準備プロセスをむしろ楽しく、そして有意義なものにしてくれたと実感しています。

▷日本のギャラリーの参加はもちろんですが、従来のアートフェアと比べたStudy x PLAS: Asia Art Fairの違いは何ですか?
本フェアの最大の差別化ポイントは、日本国内では類を見ない規模で韓国の現代美術を集中的に体験できる貴重な機会であるという点です。40を超える韓国ギャラリーと100名以上の韓国人作家が一堂に会する規模と、多彩なプログラム構成がポイントとなり、来場者には展示を「観る」だけでなく、作家本人と直接対話し、作品の背景や制作意図を深く理解する機会が設けられ、また、韓国と日本の現代アートを立体的に比較できます。
会場の梅田スカイビル10階では、日韓交流特別展とともに、女優ハ・ジウォンさんの絵画特別展、12階ではセミナーやアーティストトークを開催予定で、両国のアートの潮流をより深く体感できる場となるよう構成しています。鑑賞と学び、交流を同時に体験できる構成とすることで、両国の文化交流のプラットフォームとしての役割を果たし、従来のフェアと一線を画しています。

▷開催が迫ってきていますが、来場者に注目してほしいポイントや楽しみにされていらっしゃるポイントを教えてください。また、シン様が特に気になっている作家さんがいらっしゃいましたら教えていただけますでしょうか。
Study x PLAS: Asia Art Fairは、7月20日より大阪国際コンベンションセンターにて開催され、来場者の皆様により立体的で多層的に現代アートを体験していただけるよう、会場全体をフロアごとに機能別で分けました。
会場は、3階の主要ギャラリーブース、10階の企画展スペース、12階のセミナーやアーティストトークを開催する知的交流スペースに分かれています。特に3階で紹介される作家たちの個性やメディアの多様性は、来場者の皆様にぜひ注目していただきたいポイントです。
例えば、ペク・ジョンウンさんは、ガラスを用いて日常の物や感情を新たな視点で解釈し、透明性と強度という相反する特性を通じて、観る人に感覚的な旅を提供するような作品が特徴的です。
イ・ギラさんは、細いワイヤーを一本一本手で編み込んで立体的な風景を表現しており、絵画と彫刻の境界を行き来する非常に独創的な造形言語として評価されています。
多様な素材や表現方法に触れながら、作品鑑賞にとどまらず、作家と直接対話を重ねることで彼らの世界観を深く知ることができ、生きたアート体験の場となると考えています。展示全体を通して一つの流れとして鑑賞しながら、韓国と日本の現代アートの共通点や違いも感じていただけるかと思います。

5. 国境を越える協業について
▷今後、韓国と日本にとどまらず、アジアの美術市場全体の活性化に向け、どのような連携や協力が必要だとお考えですか。また、共に考えるべき課題には何があると思われますか。
アジアの美術市場全体の活性化に向けて、単発のイベントを越え、定期的な共同キュレーションや共同ブース運営、アート教育プログラムとの連携がカギとなると考えています。また、アートの社会的・文化的価値について共通認識を形成・発信するための対話を継続することが重要です。アートを市場的価値だけで見るのではなく、社会と結びついた文脈の中でどのように機能し得るのかを共に議論するプロセスは、地域の違いを越えた真の協力の土台になると信じています。
それらを実現するためには、具体的な目標を設定し、毎年検証と改善を繰り返すサイクルを確立しなければ、どれほど優れたイベントであっても、協業は一過性に終わってしまいます。お互いが継続的に何を共に成し遂げていくのかを考え続ける姿勢と努力も真の連携を生むと思います。今回のフェアには台湾ギャラリーの参加も得られたことで、韓国・日本・台湾を結ぶ連携の基盤が築かれたと考えています。今後もこのような実質的な交流を通じて、アジアのアートマーケットがより強く連携し、堅固なネットワークが構築されていくことを期待しています。

▷国際的なアートフェアとパートナーシップを結ばれていらっしゃるかと思いますが、美術の社会的価値について、何か心がけていることはございますか。
国際アートフェアとのパートナーシップは、出展機会の確保にとどまらず、韓国作家が持続的に海外へ進出するルートを築く役割を担っていると考えています。こうした取り組みは、市場の拡大や販売機会の獲得を超え、韓国のアートが世界の中でいかに社会的・文化的な地位を確立していけるかという、企画者としての根本的な問いとも密接に結びついています。
私自身は、いつか韓国からもフェルナンド・ボテロさんやデヴィッド・ゲルシュタインさんのように、世界的な大衆性と象徴性を兼ね備えたアーティストが誕生することを願っています。音楽グループのBTSが世界の音楽マーケットにおける韓国文化の象徴となったように、アートの分野においても、世界中に多くの感動と刺激を与えられる韓国人アーティストの登場やその活躍の姿を見たいですね。
そのような芸術家の登場は、芸術を志す子どもたちに希望を与え、美術という分野への社会的関心と尊敬を高め、文化消費の裾野を広げる効果をもたらします。ひいては、韓国美術市場全体の信頼性や規模の拡大にも大きく貢献することになると信じています。
私たちが国際アートフェアとの連携を継続し、多様な交流を積極的に推進する背景には、韓国作家による海外進出の支援と韓国美術が持つ社会的な価値と象徴性そのものを世界に広げていきたいという思いが根底にあります。

▷今回Study x PLAS: Asia Art Fairを通じて、日本進出を実現されましたが、今後、PLASとして海外進出や他国との連携も継続的に推進していくご予定でしょうか。
はい。今回の日本市場進出はPLASにとって大きな転機であり、今後も既存のパートナーシップを深化させながらネットワークを拡大していきます。
現在、台湾のOne Art Taipei、カナダのArt Vancouver、日本のStudyとはブース交換や共同企画、アーティスト交流プログラムなどを通じた実質的な協業関係を築いています。加えて、今年9月にはインドで初開催されるアートフェアに出展を予定しており、南アジア市場との連携を本格化させる第一歩と捉えています。さらに、2026年にはロサンゼルスでの協業も視野に入れ、北米市場との連携も戦略的に強化していく予定です。
このように、PLASは、韓国の立体芸術を軸にしたグローバルな美術エコシステムを構築し、それらを世界に広げていくプラットフォームとしての成長を目指しています。今後も各国のアートフェアとの継続的なパートナーシップを通して、韓国作家の海外進出を後押しし、東アジアを越えたグローバルなアートエコシステムにおける中心的な役割を果たしていきたいと考えています。

6. 貴社の紹介に関して
▷本記事に併せてご紹介したい貴社のサービスやウェブサイトのリンク、あるいは近日発表予定のニュースがあればお知らせください。
PLASは2025年に10周年を迎え、今年5月にはソウルのCOEXにて盛況のうちに開催されました。7月には日本・大阪での開催を通じて、アジア美術市場とのさらなる広がりを模索しています。今後も、韓国の彫形芸術の国際的地位をより一層高めていく予定です。

ウェブサイト: https://artspoon.io/web/plas 
Instagram: @plasartshow

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NEWS - 2025.04.12

INTERVIEW アートの世界を漫画で届ける 『いつか死ぬなら絵を売ってから』作者・ぱらり先生インタビュー

創作活動の苦悩やキャラクターの成長といった、これまでのアート漫画の主題にとどまることなく、一般的に分かりづらいとされるアートの価値や価格形成の仕組みに向き合った漫画として注目を集めている、『いつか死ぬなら絵を売ってから』。2023年6月に第1巻が刊行、2025年4月16日に待望の第6巻の刊行を控えている本作の作者、ぱらり先生をお迎えし、ぱらり先生から見たアートの世界、その世界を漫画作品に落とし込むうえでのポイントや、オークションに対するお考えを伺いました。

普遍的に届くところに着地させる―漫画とアートの交差点

▷始めに、ぱらり先生のことを教えていただけますか。どうやって漫画家のキャリアをスタートされたのですか。
もともとはただのオタクで、同人活動から漫画制作をスタートしました。どうしても幸せにしたい女の子のキャラクターがいて、その二次創作のお話を描いていたのですが、次第にオリジナルも描いてみたくなって、同人誌の即売会に参加していた時に編集の人に声をかけていただいたことで、漫画家として活動をするようになりました。

▷これまでにどんな作品を描かれてきたのでしょうか。また、そこに通底するテーマなどがあれば、教えてください。
今は現実の世界を舞台にした作品を描いていますが、前作(『ムギとぺス~モンスターズダイアリー~』)は、モンスターや獣人などのファンタジーの日常をオムニバス形式で発表していました。例えば、鳥の種族の子育てとか、爬虫類の脱皮のブームとか、「もしこの作品の世界でこれが流行ったら、どういうことが起こるのか」といったようなことを丁寧に考えて描いていた感じです。
取り上げる主題は様々なのですが、一貫しているのはキャラ同士の関係性の描写の密度が高いことで、そこを好きだと言ってくれる読者の方が多いです。人と人の関係というか。リアルな世界を物語に落とし込みたいし、作品の世界観にリアリティを持たせたいと思っています。

▷漫画家として活動をするうえで、特に影響を受けた人・経験があれば、教えてください。
大きくは二人いて、一つはおじいちゃんの存在が大きかったと思います。私はおじいちゃん子だったのですが、『ドラえもん』とかを全巻揃えてくれていて、絵を描いたら、身内の贔屓目だとは思うけど、褒めてくれるんですね。当時は漫画家になりたいとはっきり思っていたわけではないけれど、そういう環境にいたから、漫画を描くという選択肢も選べたんだと思います。
もう一人は、コミティア(同人誌の即売会)に参加したとき、その当時創作活動を始めたばかりで右も左も分からない中で、漫画家のあむぱかさんという方が声をかけてくれて、私の漫画を読んで感想を直接伝えに来てくれたんです。あむぱかさんは昨年お亡くなりになってしまったのですが、私はあむぱかさんの漫画が好きだったし、そうして直接感想を聞かせてくださって、創作が楽しいことを教えてくれた方だと思っています。

▷「いつか死ぬなら絵を売ってから」ではアートをテーマにされていますが、ぱらり先生のアートとの出会いやアートに対する思いを教えてください。
アートが好きになるきっかけは、図録で見たフェリックス・ゴンザレス=トレスさんの作品です。ほかにも作品を見る機会はありましたが、ぐっときたんです。もともと絵を描くのは好きだったのですが、アートといわれるとちょっと距離があったし、よく分からないというのも正直ありました。でも、その作品を見たときに、腑に落ちた感覚がありました。フェリックス・ゴンザレス=トレスさんの作品は、一般的な絵画よりも分かりにくい作品だと思いますが、自分も知っている感覚、愛や孤独感など感じたことをこういう風に表現しているんだというのが理解ができたんです。彼の作品を通じて、人間の表現力の果てしなさをアートに感じましたし、その果てしなさをもっと見てみたいとも思った。今年、国立国際美術館で予定されていた大規模個展がなくなってしまったのは、個人的に残念でしたね。

▷とても素敵なアートとの邂逅ですね。職業柄、人の感情の機微に向き合われているぱらり先生だからこそ、そのような体験をなさったのかもしれません。情報としてではなく、感覚的に作品を受け取られた体験というのは、何ものにも代えがたいものだと思います。
アートが今の社会を映しているというところは確かにあるので、頭で見るというのもありますよね。私の場合は最初は感覚で入っていきましたが、頭でも心でも受け取れるようになって、魅力を更に感じていけるところがあると思っています。

▷今注目されている作家さんはいらっしゃいますか。
「ART FAIR TOKYO19」で見たみぞえ画廊の、弓手研平さんと柴田七美さんです。弓手さんは、見た目は柔らかく夢のような絵画なのですが、その描き方が、油彩で層を重ねて描かれていて、時間をかけたことによる重厚感があるんです。柴田さんは、シンプルなフォルムの人物画ですが、絵具の物質性を強く感じる筆跡で、お二人とも重みのあるマチエールと、描かれているものとのギャップがあるし、物質としても面白いと感じています。

▷ちょっと踏み込んだ見方ですが、ぱらり先生は、印刷・データ媒体である漫画にはない質感や質量に惹かれるというのもあったりするのでしょうか。
漫画は質感や多層性があるわけではないので、無意識にそういうところに惹かれたのかもしれないですね。自分の分野とは違う表現方法に魅力を感じたというか。生の絵画は印刷物と違って、筆の跡とかがあったり、あるいはそれを意図的に消していたりして、そういうところが気になります。

▷絵画と漫画の差異についてお話がありましたが、漫画の構図や色彩、ストーリーテリングなどに、アートの影響を感じる部分はありますか。
アートと漫画は結構影響しあっていると思います。伝統的な絵画や現代アートでも、そこで発見された表現が漫画に輸入されることもあるし、漫画が培ってきた表現方法がアートに輸入されることもある。ストーリーテリングとしては、私はビデオインスタレーション系の作家が好きなんですね。例えば、ピピロッティ・リストさんやウィリアム・ケントリッジさんとか。いずれもフェミニズム的な文脈があったり、自国の歴史に向き合ったりと、社会的な作品を創作している作家さんです。現実を漫画の世界に反映させるとき、私は、エンタメとして普遍的に楽しんでもらいたい。面白くないと漫画として成り立たないからです。先程挙げた作家さんの作品についても、その作品の社会的・文化的背景をすべて共有していなくても、伝わるものがある。そのように普遍的に届けられるところに着地させるというのが、アートと漫画に共通するところだと思っています。

▷以前、別のインタビューで、エンタメ性を持たせることでアートって面白いと思ってもらいたいと仰っておられますが、「エンタメ性」というのは一つキーワードですね。
アートに興味を持ってもらいたい気持ちと、エンタメとして私の作品を楽しんでほしい気持ちが両方あります。漫画として面白ければ、そこに描かれているもののことも面白いと思ってもらえると思うので、そのためには、まずは漫画を面白がってもらわないといけないんです。

アートを扱ううえでの説得力とフラットさ

▷『いつか死ぬなら絵を売ってから』を描いたきっかけや背景について教えてください。
自分の感じたアート体験をほかの人にも感じてもらいたいし、共感できる人が増えたら嬉しいというのがあります。もともとアートは魅力が伝えにくい分野だと思います。今はインフルエンサーが解説をしたりしていて、アートに触れる機会や方法も増えてはいますが、「私ももっと面白く伝えられるぞ」という挑戦の気持ちがあったんだと思います。

▷アートを題材とするうえで、漫画の表現として特に工夫された点はありますか。
視覚的な点とストーリー上の点があります。
視覚的な点としては、それぞれのキャラクターが作る作品の表現が、アートとして成り立っていて、かつ、それぞれの人物が制作するものとして説得力があるものであるというのは意識をしています。主人公・一希の作風も紆余曲折ありました。最初は抽象表現とか、勢いのあるペインティングも考えていたのですが、一希の性格や生きてきた道を考えたとき、自分の目で見た現実の具象表現を描くだろうと思いました。また、その中でも、モノクロ漫画として見るときに見やすいペン画に定まって行った感じです。作中の作品で一番難しかったのは、凪森くんの作品全般ですね。一希の作品はこれと決まったので、それは描きやすい。晴永さんの場合は、コンセプチュアルで本人の主張が現れる作風というので考えやすい。雲井先生も、はかない独特の世界観を確かな技術で描いている。凪森くんは、彼のフェチズムとか幼いころの憧憬を含めた作風になっているという設定はあるのですが、「あの世界で売れている絵」という説得力がきちんと出ているようにならないといけなくて。キャラが描きそうな絵+人気な絵というもう一つプラスの説得力が必要だったんです。
ストーリー上の点としては、この作品で初めてアートに興味を持つ人もいるので、印象が偏らないようには注意しています。一希が第2話で作品をごみと間違えて捨てちゃう場面があります。読者は、最初は一希に共感すると思うのですが、それで終わらせちゃうと偏った見方になるので、捨てた作品の作者である晴永さんを登場させ、そのキャラクターに作品について語らせることで、作品に関心を持たせて新しい発見に繋がるようにしています。

▷作中で登場するアーティストやマーケットの描写は、実在の人物やエピソードからインスピレーションを受けていますか。
作中では色々なパターンを描こうとしているのですが、ある程度リアリティを持たせるために、現実に活躍している人や物事を参考にしています。
例えば、もう一人の主人公である透、もとい嵐山家は、私が初めて品川の原美術館に訪れた際のイメージが強く影響しています。原美術館は、実業家が作品を蒐集して、元々は私邸であった建物を美術館として公開しているというものでしたが、そのエピソードと、実際にその場に行った時のイメージが影響しています。なので、透くんの家は実は品川にある設定なんです。
アーティストとしては、凪森くんは現代のポップアートを意識しています。その中でも松山智一さんの影響が強いです。私がもともと松山さんの作品が好きだったのもあるのですが、現代的なポップさと青年を描く画風とかは、影響を受けています。

▷読んでいる中で「あの人なのかな」と想像したりしていたのですが、答え合わせができました。読者の反響の中で、特に印象的だったものがあれば教えてください。
もともとアートに興味ある人もいれば、興味ない人、自分も買いたい人もいれば、創作活動をしている人など、色々な人が読んでくださっています。作品を読んでみて、アートに興味持ったから美術館に行ってみよう、作家活動がんばってみようというプラスの影響があったと知れたときは、嬉しかったです。
一方で、もらった反響の中で、「自分は主人公(一希)ほど絵に夢中になれないから作家にはなれないかも」というお声があったのですが、私はそうは思いません。創作活動の中で、魂を削って頑張るのも一つのナラティブに過ぎないのです。物語としては映えるのですが、一つの創作の仕方に過ぎない。本作も、一希と透の物語なだけで、その方にはその方の物語がある。その人のペースで自分の創作活動を大事にしてほしいですし、自分なりの創作活動をやってほしいと切に思います。漫画としては、応援したくなることが大事だし、好まれる主人公が大事ですが、現実の創作活動は色々なやり方があると思います。


出典:『いつか死ぬなら絵を売ってから』5巻収録18話より抜粋
©Parari (AKITASHOTEN) 2023

セカンダリーも愛のある場所

▷アートの価格がどう決まるのか、一般の方には分かりにくいことが多いですが、それについてどう感じますか。どのような反響がありますか。
アートの値段の決まり方に対する関心は高いと思います。実際に、私の作品を知識漫画として楽しもうとしている人もいます。アートとお金の関係、高くなる仕組み、市場価値など、背景情報をまずしっかり丁寧に知ってもらわないと、そのうえに乗る登場人物のドラマも伝わりにくいので、基本的なところはわかってもらおうと思って描いています。いま、楽しく読んでもらえているということは、そのあたりも理解してもらえているのだと思っています。

▷第1巻にオークションのシーンが出てきます。アートが売買の対象となることを一希(及び読者)に認識させるシーンとなっていましたが、ぱらり先生はこれまでオークションについてどのようなイメージをお持ちでしたか。また、今回、弊社のオークションをご見学いただきましたが、オークションのイメージに変化などありましたでしょうか。
あらゆるマーケット、あらゆる商品でもいえることですが、ものを売り買いする場所となると、光の面と影の面があるという考えがもともとありました。気に入った作品を手にしたいという純粋な作品愛もあれば、語弊を恐れずに言えば、主に資産として見ていて明確な愛がそこにないという人もいて、セカンダリー(オークション含む二次流通市場)は後者が多いというマイナスの印象もありました。自分がオタクだからだと思うのですが、「転売」に悪いイメージがあったんですね。漫画を描くようになって、色々な人の話を聞いたり、オークションを見たりする中で、この作品が欲しいんだなという人の顔が見えてきた気がします。セカンダリーは、プライマリーで手に入れられなかった作品を手に入れるセカンドチャンスに挑む人たちの場なので、愛のある人たちなんだなと今は思っていますし、そう信じたい。前の所有者から愛を引き継ぐような形で次の人が購入できるのであれば、それは幸せなことだと思います。作品が流通しないと作家さんもやっていけないですし、血液みたいに、流れていないと止まってしまったらよくないので。流通の仕組みは大事だと思います。そういう良い面を大事にしていきたいと思いましたし、他の人にもそう思ってほしいと感じています。

▷実際にご覧いただいたうえで、そのような見方をしていただけるのは実務者としてとても嬉しいです、ありがとうございます。最後に、新刊の見どころについて教えてください。編集の小坂さんとぱらり先生、お二人からそれぞれお願いいたします。
(小坂さん)編集者としては、1つは一希と透の関係性ですね。アーティストとパトロンの関係ですが、それだけではない二人がどうなるか。お互いに分かり合うようですれ違ったりする、人と人とのすれ違いを見ていただきたいです。2つ目は、透の執着している過去が見えてくるところが面白いと思っています。

(ぱらり先生)そうですね。6巻までの間に積み重なってきた人の関係が動く巻なので、楽しんでほしいです。あと、今回、金沢21世紀美術館と恒久展示作品を作中に登場させるにあたり、同館の方が解説を監修してくださったり、また、スイミングプールのレアンドロ・エルリッヒさんの事務所へ使用承諾をお願いしたりしました。皆さま快くご対応してくださって、感謝しています。そうした現実とリンクしている部分を見てもらえたら嬉しいです。

新刊情報


©Parari (AKITASHOTEN) 2023

ぱらり『いつか死ぬなら絵を売ってから』第6巻、ボニータ・コミックス
発売日:2025年4月16日


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NEWS - 2024.11.15

ART COLLECTOR INTERVIEW 開き、交感する:コレクションすること、オークションという装置について  UESHIMA MUSEUM COLLECTION 植島幹九郎氏インタビュー

事業家・投資家として多彩な顔を持つ植島幹九郎氏が2022年2月に設立したUESHIMA MUSEUM COLLECTIONは、拡張を続け、今日その点数は700点以上にのぼります。形成の初期より高度に社会性を持った、その同時代的なコレクション行為は、「開かれている」という正にそのことによって、植島氏のうちに親密かつ特別な体験と深まりをもたらしているようです。SBIアートオークションでも取引をされている植島氏に、その類を見ない蒐集姿勢と、蒐集活動においてオークションが担う役割について伺いました。

⊳アート購入のきっかけを教えてください。

2011年の東日本大震災時に炊き出しに被災地に行った際に知り合った、特定非営利法人ピースウィンズ・ジャパンの大西健丞さんと交流を続ける中で、彼らが手がける芸術による地域振興活動を知りました。その中に、世界的アーティストであるゲルハルト・リヒターの14枚のガラス作品がある無人島というのがあるというので、「なぜそんなところに著名作家の作品が?」と聞いたところ、「紛争地域の支援に関連してリヒターに直接会う事になった縁で、本人から寄贈していただいた」とのこと。アーティストが社会活動に共感し行動する様を目の当たりにして、アートと社会の関わりに関心を持ちました。その作品の公開が開始された年と同じ2016年に、NYのマリアン・グッドマン・ギャラリーでリヒターの個展があり、彼の作品を間近で見て衝撃を受けました。それ以来、アートを購入しては自分の家などの展示できる場所に飾っていましたが、その当時自由に使える壁面も限られていたので、壁が埋まってしまったことで一時蒐集をやめていた時期があります。

⊳インターバルを経て、本格的に蒐集をするようになったのはいつからですか。

本格的に購入を始めたのは、2022年からです。事業拡大したことで展示に使える壁面にも余裕ができたため、いよいよアートを買っていきたいと思ったんですね。その年は、とにかく沢山のギャラリーを見て回り、アートフェアやオークションにも積極的に参加しました。活動範囲も日本に限らず、例えば韓国のFrieze SeoulやArt Baselなど海外にも広がりました。

⊳そのうえで、アート購入を「コレクション」として体系的に行っていくことを意識されるようになったのはいつなのでしょうか。

コレクションとして体系的に意識するようになったのは、2022年の途中です。多くのギャラリストやアーティストから、「購入されても倉庫に眠ってしまい、飾られないまま、鑑賞されないまま手放されてしまう作品も多い」といった話を聞き、展示することを前提に購入している自分にとっては大変な驚きでした。そこから、作品を公に公開するためにコレクションとして意識するようになりました。まずは、やはり壁面の制限がボトルネックになってしまうので、HPやSNSでデジタルに公開し、多言語でキャプションをつけることから始めました。また同時に展示の場所をオフィスにも展開するようになりました。

⊳ コレクションを積極的に発信されていますが、どのような影響・反応がありますか。

UESHIMA MUSEUM COLLECTIONとして購入した作品を公開するようになり、出会いのきっかけが増えたと思います。例えば、私は新たに蒐集した作品はInstagramで公開するようにしているのですが、SBIアートオークションでボスコ・ソディを落札した時、Instagramの投稿を見た作家から「購入してくれてありがとう」と連絡が来て、来日時に食事をしたということがありました。プライマリー(ギャラリーなど、一次流通市場のこと)で購入した場合は、作家に購入者のことは伝わりますが、セカンダリー(オークションなど、二次流通市場のこと)の場合、誰が買ったかをアーティストは知ることがなかなかできません。SNSで公開することで、アーティストに作品の所在を伝えることができ、それがアーティストとつながるきっかけとなっています。私は公開をコレクションのポリシーにしているので、投稿などを通じてアーティストにも知ってもらえるというのは大きいですね。

⊳貸し出しの依頼などもありそうですね。

そうですね。例えば、UBSの東京オフィスで行われたアーティストトークで作品を貸し出しました。あとは9月から福岡市美術館でUESHIMA MUSEUM COLLECTIONのコレクターズ展をやっていただくのですが、そうした外部での展示の機会も増えています。UESHIMA MUSEUMでの展示状況とも調整しつつ、積極的にアートを通じて社会に関わっていこうと思っています。

⊳ 今年の6月、渋谷にUESHIMA MUSEUMを開館されました。そのことで変わったことはありますか。

コレクションをたくさんの方に見ていただける機会が増え、その上で反応がわかるようになり、そこからの気づきや学び、経験が増えました。それまではウェブ上での公開が主だったので、誰が見ているのかや、見ていただいた方の反応を見ることができませんでした。今は、自分が館内でコレクションの案内をすることもあり、もっとインタラクティブな形で反応を見る事が出来るようになったと思います。また、美術館での展示を通じたアーティストとのやりとりも挙げられますね。美術館には、一人の作家に特化した展示室が複数あるのですが、例えばシアスター・ゲイツの展示室に関しては、オープニングのタイミングが作家自身の森美術館での個展の準備期間と重なったこともあり、内装工事中にお見えになって、展示空間の造り込みに携わって下さいました。展示室で流れている音楽についても、作家自身がオリジナルの音源を送ってくれたものになっています。ただ作品を購入するだけでなく、アーティストやキュレーターの方ともやり取りをしながら、どう展示するか、どう皆さんに見ていただくかを考えることで、作家や作品への理解や愛着が深まり、非常に楽しい経験ができています。

⊳開くことによって新たに見える・得られることがあるのですね。現在開催中の展示の中に、弊社のオークションでご購入いただいたものも含まれています(村上隆×ヴァージル・アブロー、2022年3月オークションで落札)。確か、弊社オークションで初めてご落札いただいたのは、2016年4月のセールだったかと思いますが、他社も含めて、初めてオークションに参加されたのはいつですか?

それこそ、その2016年のSBIアートオークションが初めてで、それ以前に国内外のその他のオークションには参加していません。確か、会場に行ってその場でパドルをあげたと思います。アート業界に特に接点がなく、知り合いもいない中で、調べたら東京でオークションをやっているということで参加しました。中村一美さんやジャン=リュック・モーマンなどを購入しましたね。

⊳オークションは弊社が初めてだったとは、光栄です。それまではギャラリーが主だったかと思いますが、オークションとギャラリーでの体験の違いについて教えてください。

両者の体験にはかなり違いがありますね。まず、日本はともかく海外のオークションハウスの場合は下見会会場に毎度足を運ぶことは難しく、作品を実際に見ずに購入することも往々にしてあります。オークションで落札した作品の中で、下見会で見てから落札したのは全体の10%もいかないくらいではないでしょうか。ギャラリーも海外の場合はリアルで見られないことが多いのに変わりはないのですが、オークションは特にその傾向が強いです。その意味では、日本に作品があって、見ることができる環境でオークションに参加できるのはSBIのアドバンテージですよね。また、プライマリーでは買いたくても人気が殺到してしまうとオファー待ちで買えない時がありますが、オークションは気持ちがあれば買える。競りに挑む時は、ワクワク、ドキドキがあります。オークションは週末に開催されることが多いので、私は家族と過ごしながら、公園とか遊園地とかでもスマホで入札しているのですが、家族と一緒に「買えた」とか「あーダメだった」とか言いながら参加しています。このダメだったというのも、結局自分がもう1ビッド行かなかったということ。だから、どうしても欲しいという気持ちが強くないと落札は難しいと思います。その気持ちの源泉としては、やはりこの瞬間のここにしか出てこない作品であるというところが大きいでしょうか。ギャラリーで購入できる作家であっても、過去の作品はプライマリーには出てこない。オークションは過去作が欲しいときなどにも有用ですね。競りが自分の入札で止まると「早く(ハンマーを)打ってよ-」と思うのですが、ぎりぎりのところで他の入札が入ってしまうことも。そうしたオークションのライブ感を楽しんでいます。

⊳ 落札するには気持ちの強さが大事なのですね。植島さんは、普段どのようにオークションに臨まれているのですか。

セールまで、カタログは複数回チェックします。まずは全体をパーっと見て、気になったものにマークをつけます。マークをつけた作品は、メディウムやサイズなどの作品情報を確認し、過去の市場価格やエスティメートなどを調べます。また、興味を持った作品の作家に関しては、知っていても知らなくても、必ずCV(経歴や展示歴などをまとめた資料)を確認するようにしています。1回目はやはり自分の先入観とか既知のものとかに反応してマークしてしまっていることがあり、見落としているものがあるかもしれないので、確認のために2-3回見ますね。作家名、画像、作品の色味、金額など、目についてくる点は色々あるので、異なる視点で隈なく見るようにしています。

⊳ オークションの場合は事前にかなり下調べをされて臨まれているとのことですが、ギャラリーでの購入に関してもそうなのか、偶然的な出会いで購入されるのか、どちらでしょうか。

両方ありますね。ギャラリーが集合しているコンプレックスに行く場合、目的のギャラリーの横の別のギャラリーにふらっと立ち寄った際に、新しいアーティストや作品と出会うこともあれば、個展の情報を見たうえでそれを目がけてギャラリーに伺う場合もあります。

⊳ なるほど。ちなみに、今注目されているアーティストはいらっしゃいますか。

例えば今津景さんに注目しています。1人の作家の作品で、10点以上所有している作家は少ないのですが、彼女はその一人で、今津さんの作品は多く所有しています。あと、かなりベテランの作家の中では、松本陽子さんも注目しています。

⊳今津さんはオークションマーケットでも人気が高まっている作家さんです。さて、オークションの話に戻りますが、弊社オークションをご利用いただく際、事前にスタッフに購入について相談されたりするのでしょうか。どういった話をされていますか。

下見会に行った際に、どの作家の人気があるかなどを聞いたりしますね。ただ、どの作家を競ろうと思っているといったことは、あえてあまり言わないようにしています。競りにおいては、より高い価格で落札されるようにオークションハウスは活動していて、それがマーケットの性質としてあるのだと理解しているので、欲しい作品を前にしても、(狙っていることが周りに知られることで)作品が注目を集め、ライバルが増えることを避けたいので、あえてポーカーフェイスでいます。これは個人的な考えなので、実際にどのくらい影響があるかはわからないのですけど。

⊳多くを語らないご様子には、そういう理由があったのですね。国内外、様々なオークションハウスがありますが、SBIアートオークションを利用される理由は何ですか。その特徴はどこにあると思いますか。

アジア・日本の作家でSBIでしか出品されていないものがあります。また日本に住んでいますので、下見会を日本で見られるし、送料も安いのは魅力です。送料を理由に購入を見送ることはないですが、とはいえ海外輸送は費用がかかりますので、その点リーズナブルだと感じます。私は主に、今津景さんや加藤泉さんなど、プライマリーで作品がなくて買えない作家や若い作家の作品の購入にSBIを利用することが多いかなという印象です。加藤さんなんて本当に買えないんですよ。

⊳ 例えば昨年ご購入いただいたアブディアなど、海外の作家で、日本のギャラリーでは取り扱いが無い作家もいらっしゃるかと思います。弊社オークションでご落札をいただいたのは、日本で作品を実際に見る機会があった中で買われたのか、それとも以前からチェックしていて、リーズナブルだから買った形でしょうか。

元々アーティストのことは知っていて、他のオークションでもずっと見ていました。比較的に安かったという点もありますが、結構ユニークな作品だったため、購入しました。先程、SBIの特徴としてアジア・日本の作家のラインナップの話をしましたが、一方で、このような海外作家の作品を見る機会があると良いなとも思います。

⊳日本で行われるセールで、欧米の作家の作品がもっと買えるようになったらいいとか、あるいは逆に、戦後美術など国内作家が増えて欲しいなど、コレクターとしてはどのように思われますか。

両方あると良いかもしれません。例えば、アメリカの方が全く知らない日本のアーティストだけだったらセールに参加しなかったけれど、知っている欧米の作家の作品があったことで参加し、そこから日本のアーティストを知るというようなケースもあるかと思います。最終的には、「PhillipsやChristie'sでやっているような現代アートのラインナップを、日本で見られるのはSBIだけ」というようになれたらいいですよね。海外のオークションハウスは日本でオークションを開催しないですし、下見会も日本ではほぼ無い。だからこそ逆にチャンスはあると思います。

⊳ありがとうございます。最後になりますが、弊社に期待すること、あるいはこうなってほしいなどのご要望があれば、お聞かせいただけますと幸いです。

今も海外から参加されている方は多いと思いますが、よりSBIアートオークションに参加される方が国際的に増えていってくださると良いなと思います。グローバルに認知されていってくれれば嬉しいですね。日本のアートやアートマーケットが、ドメスティックに留まるのではなく、グローバルに繋がるなかで、日本のアーティストが海外の方に知られるようになってほしいと思いますし、日本のコレクターが海外のアーティストの作品に触れる機会も増えて欲しいと考えています。SBIが、日本に作品を持ってきたうえで、日本でオークションを開催しているグローバルな企業になってくれたら嬉しいなと思います。


UESHIMA MUSEUMとは


2024年6月に渋谷教育学園の旧ブリティッシュスクール(東京)の建物を改装しオープンしたUESHIMA MUSEUMは、事業家であり、投資家の植島幹九郎氏が2022年2月に本格的にスタートした美術コレクションであるUESHIMA COLLECTIONをもとに設立されました。ビジョンとして『「同時代性」について、美術を通じて考える場になる。』を掲げている同館は、1990年代以降に制作された作品が展示されており、現在はオープニング展を開催しています。UESHIMA COLLECTIONは、2022年に始まったばかりである比較的新しいコレクションでありながら、このわずか数年の間にすでに700点(2024年6月時点)にのぼるコレクションを収蔵し、今年の美術館の設立にまで至ったこのスピードの速さは、まさに目まぐるしく世情が移り変わる現代の流れを反映しているかのようです。
館内には、アーティストの作品をもとにデザインされた展示室が複数存在します。オラファー・エリアソンの《Eye see you》(2006)は、照らす対象の色を全て同色に染める点が特徴的であり、この作品が設置された展示室には作品を挟むように両側に鏡が設置されており、無限にこの光の世界が続くような錯覚をもたらします。コンポーザーであり、アーティストの池田亮司の《data.scan [n°1b-9b]》(2011/2022)は、カーテンで遮断された真暗の展示室に設置され、9枚のディスプレイにそれぞれ異なるデータが映し出されています。同館には、このような国際的な人気や知名度を誇る作家だけでなく、日本国内やアジア圏での活動を主とした作家や美術業界でのキャリアを開始したばかりの作家も含まれており、全てのアーティストを対象としてコレクションを現在も拡大し続けています。
最近では、オープニング展の展示作品に新たなコレクションが加わりました。東京にお越しの際には、是非お立ち寄りいただけますと幸いです。

UESHIMA MUSEUM
住所:東京都渋谷区渋谷1-21-18 渋谷教育学園 植島タワー
開館時間:11:00-17:00
休館日:月曜、祝日
Webサイト:https://ueshima-museum.com/

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